イトウさんのちょっとためになる農業情報

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イトウさんのちょっとためになる農業情報『化学的防除法』

※こちらの記事はアグリノート公式Facebookページに掲載した連載記事を、アーカイブとして転載したものです。

【2017/11/02更新:第二十回】

コラム連載20回目の本日は
元普及指導員・イトウさんの“ちょっとためになる農業情報” 、化学的防除法のお話しです。

4つの防除法についてご案内してきましたが、いよいよ4つ目まできました。
化学的防除ということは、農薬のお話しですね。参考になるお話しが聞けそうです。

今回は化学的防除法についてお話しします。

化学的防除法とは

「化学的防除法」といった場合、有機合成等によって作られる農薬を用いた防除法を指します。

農薬の多くは速攻性であり、一部の難防除害虫・病害を除けば容易に防除ができます。
農薬の種類にもよりますが、一般的に他の防除法に比べて低コストで省力的という利点があります。
ただし、これも農薬の種類によりますが、天敵などの有益昆虫を含めた自然の生物相に影響する場合があるということ、連用により農薬に抵抗性をもった病害虫が生ずる可能性があるのは欠点です。

農薬の使い方に関しては以前ローテーション防除の説明をした際にも触れましたので、今回は化学合成農薬の中でも少し変わった作用を持つものについて紹介したいと思います。

 

IGR(昆虫成長制御剤)

昆虫は脱皮や変態など様々な生理機能の調節に、昆虫特有のホルモンを利用しています。これらのホルモンを昆虫に対して外部から投与すると、ごく微量でも脱皮や変態が阻害されたり、過剰に促進されたり、皮膚の硬い部分であるキチン質の合成が阻害されたりして最終的には死亡します。

天然の昆虫ホルモンは不安定で農薬としての利用はできませんが、これを真似た化合物を合成したものがIGR(Insect Growth Regulator, 昆虫成長制御剤)と呼ばれるグループの農薬です。IGRはヒトを含む脊椎動物に対する毒性は低く、安全性が高いという特徴もあります。特定の昆虫種のみに作用するものも多く、天敵と併用しやすいというのも利点です(実際に利用する前には影響表などをよく確認しましょう)。

ただし、その作用の特性上、成虫に対する致死効果は期待できません。
(産まれた卵が孵化しないなどの効果が現れる場合はあります)

 

交信撹乱剤

誘引性の性フェロモンは対象とする昆虫に対して極めて低い濃度で誘引作用を示すため、人工的に合成した性フェロモンはトラップの誘引源として利用されています。ただ、フェロモントラップのみで防除効果を得ることはなかなか難しく、防除適期や発生量を知るためのモニタリング用での使用が主です。

性フェロモンを防除に使う手法として交信撹乱法という手法があります。
空気中に性フェロモンを高濃度(交信に使う濃度に比べてという意味なので、実際にはごく低濃度です)で蔓延させておくと、昆虫は交尾相手が見つけられず、次第に密度が減っていきます。性フェロモン剤そのものには殺虫作用すらありませんから、安全性が高く、長期間作用し、抵抗性がつきにくく、対象害虫以外には作用しないので天敵にも優しい優れた防除方法です。交信撹乱法は広範囲で取り組むとより効果的です。

 

抵抗性誘導剤

抵抗性誘導剤と呼ばれる殺菌剤があります。これは直接菌を殺すのではなく、植物体の防御機構を発揮させて間接的に病気を防除するタイプの薬です。

イネのいもち病は物理的な圧力で植物の細胞壁を貫通します(この時発生する圧力は実に8MPa(約80気圧)にもなり、生物が生み出す圧力としては最大レベルです)。侵入されたイネは周辺細胞を急激に変化させ、自ら死ぬことによりいもち病菌を封じ込めます。イネはこのような防御機構でもっていもち病菌に対抗しているのですが、この反応がうまく起こらないといもち病に感染してしまいます。

イネいもち病をはじめとする病害の予防剤であるプロベナゾール(商品名: オリゼメート粒剤など)は、薬剤そのものに殺菌作用はありませんが、植物の防御反応が的確に起こるようにスタンバイ状態にさせる作用があり、いもち病に対して予防的な防除効果を発揮します。

また、プロベナゾールは上市されてから既に40年が経過していますが、耐性菌の報告がありません。
抵抗性誘導剤は耐性菌発生リスクが非常に低いと考えられています。

オリゼメート粒剤_20171101


≪参考≫
– アグリノートホームページ 記事アーカイブ
イトウさんのちょっとためになる農業情報『害虫の薬剤抵抗性とローテーション防除』