イトウさんのちょっとためになる農業情報

トップページ イトウさんのちょっとためになる農業情報 イトウさんのちょっとためになる農業情報 第23回『飽和水蒸気圧』

イトウさんのちょっとためになる農業情報 第23回『飽和水蒸気圧』

イトウさんのちょっとためになる農業情報

※こちらの記事はアグリノート公式Facebookページに掲載した連載記事を、アーカイブとして転載したものです。

【2017/12/21更新:第二十三回】

元普及指導員・イトウさんの“ちょっとためになる農業情報” 、本日は湿度のお話しの2回目をお届けします。

初回から「湿り空気」、「水蒸気圧」、「飽和水蒸気圧」、「相対湿度」と単語がたくさん登場し、一口に湿度と言っても実は複雑なことがわかりました。
2回目の今回は、前回の「飽和水蒸気圧」のお話しの続きです。
図解と合わせてご覧ください。

飽和水蒸気圧と気温

飽和水蒸気圧は、気温が高いほど大きくなります。大雑把にいって、温度が10℃上昇すると飽和水蒸気圧は概ね2倍になります。

飽和水蒸気圧は空気が水蒸気を含むことの出来る容量を示していますから、これが2倍になれば蒸発速度も2倍になるのでしょうか?

実は、気温が10℃上がると、一般的に水の蒸発スピードは2倍よりもっと大きくなります。このことを理解するには、飽差という概念が必要になってきます。

 

アーカイブ23_飽和水蒸気圧は気温に比例する

 

飽差

空気の飽和水蒸気圧と水蒸気圧の差のことを「飽差」と呼びます。
蒸発速度を決めるのはこの飽差で、例えば飽差が倍になれば蒸発速度も基本的には倍になります。

飽差は数字が大きいほど乾いている、という点に注意が必要です。「乾燥度合い」を示していると考えると理解し易いと思います。

また当然ですが、どんなに相対湿度を下げても飽差は飽和水蒸気圧以上にはなりません。
例えば、気温5℃では飽和水蒸気圧が8.7hPaです。つまり、5℃では飽差は8.7hPa以上にはなりません。
気温が低いと、飽差は低くならざるを得ないのです。

(単位が違うのでは?と思った方は鋭いです。次回「他の飽差」について説明します。)

 

アーカイブ23_飽差ってなに?

 

夏の相対湿度60%と冬の相対湿度60%

天気にもよりますが、日本では相対湿度は夏に高く、冬に低い傾向があります。
しかし、相対湿度の低いはずの冬のほうが洗濯物が乾くのに時間がかかります。
気温が低いと飽差も低くなるという関係は、このような部分にあらわれてきています。

例えば相対湿度が60%だったとして、気温が30℃と10℃の場合を比べてみましょう。
気温30℃の場合、飽差は17hPaです。一方、気温が10℃だと、飽差はわずか5hPaです。
同じ相対湿度60%でも30℃と10℃では乾くスピードが3倍以上も変わってしまうのです。

 

アーカイブ23_洗濯物と飽差

 

気温を上げた場合の飽差と湿度の変化

今の例では相対湿度が同じ場合の比較をしましたが、例えば10℃の空気を温めたとすると、飽和水蒸気圧が高くなることによって相対湿度が下がります。そのため、飽差はもっとずっと大きくなります。
最初に「気温を10℃上げると蒸発スピードは2倍よりもっと大きくなる」というやつです。数字を確認してみましょう。

10℃、相対湿度60%の空気(飽差5hPa)を20℃にすると、相対湿度は32%にまで低下し、飽差は16hPaと3倍以上になります。気温を上げると、それだけで空気は大きく乾燥するのです。

大まかに、気温を1℃上げると相対湿度は0.94倍になり、飽差は1.15倍になります。
1℃気温を上げるごとに蒸発速度が15%上がるわけです。

 

飽差の計算

飽差は気温と相対湿度が分かれば計算できますが、面倒です。
そこで今回、予め値を計算し、表にまとめてみました。

 

アーカイブ23_飽差表

 

目的の気温・相対湿度で垂直・水平方向に交わる部分の数字が飽差です。
また、気温を上げたときに相対湿度と飽差がどのように変化するのか知りたい場合は、水色のラインにそって斜めに移動して下さい。
たとえば気温20℃、相対湿度100%の場合の飽差は0hPaですが、気温を22℃まで上げると飽差は2.6hPaに、24℃まで上げれば6.0hPaになります。

 


≪参考文献≫
– 上田政文(2000) 『湿度と蒸発』コロナ社
– 日本農業気象学会編 (1997) 『新訂 農業気象の測器と測定法』農業技術協会