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イトウさんのちょっとためになる農業情報 第25回『飽差と管理』

※こちらの記事はアグリノート公式Facebookページに掲載した連載記事を、アーカイブとして転載したものです。

【2018/01/18更新:第二十五回】

話題の「飽差」を取り上げております元普及指導員・イトウさんの“ちょっとためになる農業情報”。
湿度のお話し4回目の本日は『飽差と管理』のお話しです。

今回も便利な表が登場します!スライドと合わせてご覧ください。

 

適切な飽差

植物は葉の気孔からの水分蒸発(蒸散)によって、養水分を吸収するための力を得たり、体温を適正に保ったりしています。
植物が正常に生育するためには、常に適正な量の蒸散が行われている状態が必要です。

植物にとって水は優先すべき資源なので、乾燥条件では過剰な蒸散が起こらないように気孔が閉じられます。
葉の冷却には多量の蒸散が必要なので、強い乾燥条件では葉温が上昇して光合成速度が低下することもあります。

 

植物にとっての蒸発の役割

 

それに加えて、気孔は光合成の材料である二酸化炭素の取り込み口でもあるので、葉内が二酸化炭素不足になってしまいます。
この状態は単に光合成速度が低下する以上の危険性があります。
二酸化炭素が不足している状態で光が当たりつづけると、消費しきれなかった過剰な光エネルギーによって活性酸素が発生し、光合成のシステムが破壊されてしまいます。

このような強光による光合成能力の低下を光阻害と呼びます。
光阻害は乾燥ストレスだけでなく、低温や、乾燥とは逆に思える濡れによっても引き起こされることが分かっています。
葉の濡れも実は気孔を閉鎖させるため、二酸化炭素不足になり、光による障害が起こりやすくなると考えられています。
(※光阻害のメカニズムにはまだ解明されていない部分もあり、上記の説明は一つの説です)

また、「強光」と言いましたが、乾燥や低温、濡れなどのストレスが大きい場合には、通常は問題ない光の強さでも障害が発生することがあります。
例えばキュウリは10℃以下の低温に遭遇すると、その後適温に戻しても回復しない生育障害を起こすことがあります。
これはかつては低温だけが原因と考えられていましたが、障害の発生には低温に加えて光も必要なことが分かっています。

 

乾燥ストレスは光合成を阻害する

 

飽差と飽差の関係

似たような意味の2種類の飽差ですが、幸いなことに数字も似たようなものです。
とはいえ若干の違いはあります。

常温(5~35℃)の範囲では、値はhPaの方が大きく、g/m3の1.3~1.4倍程度の値になります(正確な倍率は温度次第です)。

飽差を見るときには、使われている単位が何なのか、少しだけ注意してみてください。

 

飽差の指標

話がやや脱線しましたが、気孔が閉じず、なおかつ適正な量の蒸散を維持するためには、そこそこの湿度が必要です。
ではどのような飽差が最適なのか、指標が欲しいところですね。

オランダ、ワーニンゲン大学のフーヴェリンク博士は飽差4~7hPaが最適であると著書の中で述べています。
日本では3~6g/m3が最適とされることが多いようです。
(※hPaの飽差をg/m3で表現するといくつになるのかは厳密には温度次第ですが、概ね3~6g/m3程度です)
ただ、どの程度の飽差が最適かという点については植物の種類や生理状態による部分もあります。

 

最適な飽差とは?

 

4~7hPaまたは3~6g/m3の範囲を示した飽差表を作成してみましたので、確認してみて下さい。
飽差を表現する単位によって若干異なりますが、相対湿度で見てみるとかなり高めで、しかも範囲が狭いという印象を持たれたのではないでしょうか。

 

最適飽差と飽差表_hPA版

 

最適飽差と飽差表_gm3版

 

たとえば30℃の場合、飽差4~7hPaというのは相対湿度85~90%くらいの狭い範囲です。
また、加湿や除湿をしない場合では飽差は水色の線に沿って変化しますから、プラスマイナス1℃くらいの気温変化でも範囲を外れてしまいます。

 

飽差の影響

光合成の効率を考慮すると、多くの植物では2~10hPa程度の範囲で湿度はあまり大きな影響はないようです。
それより低湿度になると気孔が閉鎖し、光合成速度が低下する場合があります。
一般的には10hPa程度から植物は乾燥ストレスを受け始めると考えられています。
飽差10hPaは気温30℃なら相対湿度75%、気温15℃なら相対湿度40%に相当します。

植物をどのような状態にもっていきたいか、という側面でも考えてみるとよいでしょう。
一般に高湿度条件では地上部の生育が旺盛となり、栄養成長が促される傾向にあります。
低湿度条件では逆に地下部の生育が促され、生殖成長が促されます
例えば栽培初期のキュウリにいかに花芽をつけるかという場面では、生育が抑制されない程度に乾燥ストレスをかけていくような管理が有効です。

ほかにも、短期的に湿度を上げて飽差を10hPaから2hPaにすると、葉面積が増加しますが、長期的に4hPaという高湿度で管理すると、葉面積や葉の重量が減少するという報告があります。これは、蒸散量の低下により葉のカルシウム濃度が低下するためです。この点については次回改めて説明します。

 

飽差と病害発生

植物病害の多くは原因が糸状菌(かび)なので、飽差が低い=多湿状態で発生しやすくなります。
たとえばトマトの灰色かび病では2hPa以下の飽差で分生子(胞子)の発生が多くなることが知られており、他の多くの病害でも2hPa程度以下で発生しやすくなります。

飽差2hPaは相対湿度でいうと10℃なら84%、20℃なら91%です。
夜間、特に暖房機が稼働するか微妙な季節は湿度が高くなりやすいので、特に注意が必要です。

 

飽差と管理_まとめ

 


≪参考文献≫
– 鹿内利治(2006) 植物の光環境適応戦略 化学と生物, 44, p.121-127
– フーヴェリンク, E.・キールケルス, T(2017) 『オランダ最新研究 環境制御のための植物生理』(中野明正・池田英男 他 監訳)農山漁村文化協会
– 「 『飽差』ってどういうこと?」 , 『現代農業』2011年11月号, p.164-167, 農文協
– 光阻害 http://hostgk3.biology.tohoku.ac.jp/hikosaka/photoinhibition.html