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イトウさんのちょっとためになる農業情報 第28回『ソースとシンク』 #後編

※こちらの記事はアグリノート公式Facebookページに掲載した連載記事を、アーカイブとして転載したものです。

【2018/03/01更新:第二十八回】

湿度のお話しをお届けしております、元普及指導員・イトウさんの“ちょっとためになる農業情報”。
今回は、ソースとシンクのお話の後編をお届けします。

ソースとシンク(2)

 

ソースが不足するときの対処 – 不足する光合成産物を補う

光合成産物(炭水化物)が足りないのであれば、養分として与えてしまえ、というやり方が上手くいくこともあります。植物を試験管の中で培養するために用いる培地の組成(レシピ)として、古くから使われているMS培地というものがあります。
MS培地の中には無機養分の他にショ糖、ビタミン、アミノ酸などの有機物も含まれており、これらがあることによって生育が良好になることから、植物が有機物を直接吸収できることは古くから予想されていました。実際このことは70年代以降の多くの研究結果を通じて確認されています。

では、天候不順による炭水化物不足を、炭水化物を肥料として与えることでリカバーできるのか、というのが気になるところです。

これは例えば水稲で確認されています。冷害の際には低温と日照不足によって光合成産物が不足しますが、このときにアミノ酸の一種であるアルギニンを与えておくと収量の減少をかなり抑えられるという研究結果が得られています。窒素源として炭水化物を含むアミノ酸を吸収することで、光合成の不足分を補えるのではないかと考えられています。
ただし、アミノ酸ならなんでも良いというわけではなくて、その種類によって影響は異なります。

一口にアミノ酸といっても種類が沢山あるので、代謝されにくく生育への影響が少ないものや、過剰に与えると生育障害を起こすものもあります。また、アミノ酸はそのまま土壌に施しても比較的速やかに微生物により分解されてしまいます。
そのため、ピンポイントでこの種類のアミノ酸を与えたい、という要求に応えるのはなかなか難しいのですが、堆肥などの有機物を施すことで土壌中のアミノ酸含量が高まるという報告もあります。有機質の施用は適量を継続的に施すことが重要です。バランスの良い土作りを心がけましょう。

また、植物の種類による影響もあります。気温の低い地域や湿地では土壌中で有機物の分解が進みにくいので、そのような地域に由来する植物はアミノ酸のような有機態窒素を吸収する能力が発達しているのでは、という予想もあります。
吸収効率の良い無機体窒素である硝酸態窒素とアンモニア態窒素ですら植物によって好みが分かれるのですから、有機態窒素の好みが分かれるのも当然かもしれません。

ところで、炭水化物は沢山あれば必ずしも生育が進むというものでもありません。水稲にアミノ酸を与えた場合の生育促進効果は、冷害時にはよく現れるものの、通常の気象条件ではそれほどでもありません。炭水化物は多すぎると光合成にブレーキをかけてしまうのです。
光合成には昼寝現象というものが知られています。光合成によって作られた糖は転流によって他の部位に分配されていきますが、これが間に合わないと一時的にデンプンとして蓄積されます。そして、葉内にデンプンが蓄積していくと光合成が抑制されると考えられています。
この現象が「昼寝」と呼ばれるのは、葉緑体に光合成産物が蓄積して光合成が抑制されるタイミングがお昼ごろになることが多いためです。

これは施設栽培で炭酸ガスを施用しているような場合に考慮すべき課題となることがあります。
炭酸ガスを施用することで光合成速度は上がりますが、転流が間に合わなければ葉にデンプンが蓄積して光合成が抑制されることがあります。
これを解消するためには管理温度を上げて転流を促す必要があります。一般に炭酸ガス濃度が高いほど、好適な管理温度は高くなる傾向があります。
ただし、昼寝現象はデンプンの蓄積以外に、日中の強光と乾燥による気孔の閉鎖が原因となって発生する場合もありますから、施設内の環境条件にはよく注意を払うようにしましょう。

 

5-3光合成の昼寝現象

 


≪参考文献≫
– L.テイツ, E.ザイガー. 植物生理学. 第3版, 培風館, 2004.
– 日本植物生理学会, “植物体へのアミノ酸の吸収について”. 2007-01-15. (https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=1155). 参照(2018-02-07)
– 日本植物生理学会, “植物生理学について”. 2009-03-09. (https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=1936). 参照(2018-02-07)
– 日本植物生理学会, “根から吸収されたアミノ酸は炭水化物に代謝されるか”. 2017-08-16. (https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=3858). 参照(2018-02-07)
– 伊東 正. そ菜の光合成特性とその栽培的意義(第2報). 園芸学会雑誌. 1971, vol. 40, no.1, p.41-47.
– 二瓶 直登. 植物のアミノ酸吸収・代謝に関する研究. 福島県農業総合センター研究報告. 2010, vol.2, p21-97