イトウさんのちょっとためになる農業情報 第5回『アブラムシ』 #2
※こちらの記事はアグリノート公式Facebookページに掲載した連載記事を、
アーカイブとして転載したものです。
【2017/6/22更新:第五回】
こんにちは。アグリノートサポートチームです。
毎週木曜日のコラム連載も定着し、
エントリーをシェアいただくなど皆さまにチェックしていただけているようでとても嬉しいです(´∀`)/
コラム連載5回目の本日は、
元普及指導員・イトウさんの“ちょっとためになる農業情報”
『アブラムシ』のお話の第2回をお届けします。
前回ご紹介したアブラムシの特性を踏まえ、
今回はいよいよ困ったアブラムシの防除のお話しです。
光を利用したアブラムシ防除
■■ 反射光による忌避効果
有翅アブラムシは反射光を嫌う性質を持っています。理由はよくわかっていませんが、どちらが空かわからなくなったり、水面と勘違いしたりするのではないかと考えられています。従って、シルバーやシルバーのストライプ入りマルチを使うと反射光による忌避効果が得られます。シルバーのテープを張り巡らせる方法もあります。施設栽培向けには反射資材を織り込んだ防虫ネットなども市販されており、これも侵入防止に高い効果があります。
■■ 黄色による誘引効果
有翅アブラムシは黄色に誘引される性質をもっています。この性質を利用したトラップとして、黄色の紙やプラスチックに粘着剤を塗布したものが市販されています。防除効果をねらう場合はある程度の枚数(10aあたり100~300枚程度)の設置が必要です。
少数(10aあたり10枚程度)を設置し、これを定期的に交換して捕まったアブラムシやその他害虫の数を数え、発生状況のモニタリングに使うのも有効です。害虫の発生状況を定量的に把握することは、他の防除手段を講ずる際の判断材料を得るためにも大切です。
なお、露地栽培では粘着力が持続しなかったり、かえってアブラムシをおびき寄せてしまう場合もありますので、モニタリング用に限定して使うと良いでしょう。
■■ 紫外線カットによる行動阻害
施設栽培では被覆資材に近紫外線カットフィルムを使用することでアブラムシの侵入を抑止できます。昆虫の中には植物の位置を確認し移動する行動(定位行動)のために紫外線を利用するものがおり、アブラムシもその一種です。これらの昆虫は紫外線をカットすると行動が撹乱されるため、ほ場に定着しにくくなると考えられています。
紫外線カットフィルムは害虫だけでなく灰色かび病など一部の病害に対しても発生抑止効果が期待でき、農薬の使用量削減に有効な技術です。ただし、訪花昆虫の活動や果実着色に影響する場合があるので、栽培品目によっては注意が必要です。
余談ですが、市販の照明用LEDは蛍光灯や白熱電球よりも虫が寄り付きにくいと言われています。これは照明用LEDからの紫外線の放射量が少ないことが原因と考えられています。
農薬を利用したアブラムシ防除
※重要※
農薬には使用基準があり、使用できる農作物や使用できる時期などが定められています。農薬は必ず有効期限内のものをラベルの記載を守って使用しましょう。
■■ 生育初期の対策は粒剤で
アブラムシはウイルスを媒介するため初期の防除が特に重要です。初期防除には残効の長い粒剤や灌注処理剤が効果的です。これらは大抵の場合、散布剤よりも残効性とウイルス伝染防止効果に優れます。これはたとえ同じ成分の薬剤であっても同様です。従って、予め粒剤を処理しておくことで結果的に農薬の使用量を削減できる場合もあります。
■■ ウイルス伝染防止に吸汁阻害剤
吸汁阻害剤と呼ばれる農薬は、害虫の吸汁行動を阻害することにより防除効果を発揮します。アブラムシは吸汁行為によってウイルスを媒介するので、吸汁阻害剤はウイルス伝染防止に高い効果が期待できます。また、天敵や訪花昆虫も比較的優しく、他の技術と組み合わせやすいという特徴もあります。
なお、吸汁阻害剤は吸汁阻害効果は速攻的ですが、死ぬまでには少し時間がかかります。効かなかった!と思って再度防除をしてしまわないように注意しましょう。
■■ スポット発生には気門封鎖剤を
アブラムシは大抵の場合スポット的に発生します。そのような場合にほ場全体に農薬を散布するのは手間です。かといって部分的に散布しても1回は1回です。ルールは守らなければいけません。
そのような場合に便利なのが気門封鎖剤です。気門封鎖剤は昆虫が呼吸をする場所である気門を物理的に封鎖し窒息死させる農薬です。使用回数制限が無いものが多いので、スポット散布でも利用しやすい農薬です。直接かからなければ効果がありませんので、葉裏にもしっかりかかるように散布するのがポイントです。
スポット散布は天敵を使っている場合に特に有効な技術です。天敵への影響を最小限にしつつ害虫を防除することができます。
アブラムシが媒介するウイルスへの対策 – 弱毒ウイルスの利用
前回お話したように植物ウイルスは一度感染すると治りませんので、抜き取って処分するしかありませんが、感染する前ならば対策が可能です。
ホームセンター等で「CMVワクチン接種苗」と書いたトマトの苗を見たことがあるでしょうか。このトマトにはCMV(キュウリモザイクウイルス)の弱毒株(感染しても症状が出ない変異株)が接種してあります。植物ウイルスには複数種のウイルスが同時に感染すると症状が強まったり弱まったりする「干渉効果」という現象があります。このうち、既にウイルスに感染した植物が同種または近縁のウイルスに感染しにくくなる現象を特に「クロスプロテクション」と呼びます。弱毒ウイルス接種苗はこの現象を利用したものです。
弱毒ウイルス接種苗は少々高価で、対象以外のウイルスには効果がありません。しかし、対象のウイルスに対しては優れた効果があります。現在困っているウイルスの種類が明らかで、それに対する弱毒ウイルスが利用できる場合には、被害額や防除コストと照らし合わせた上で利用を検討してみましょう。
≪ 参考資料 ≫
– 光を用いた病害虫防除技術の確立 – 農林水産省
http://www.maff.go.jp/j/syouan/syokubo/gaicyu/pdf/04.pdf
– 白石ほか著『新植物病理学概論』養賢堂