イトウさんのちょっとためになる農業情報

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イトウさんのちょっとためになる農業情報 第7回『微生物農薬使用のポイント』

イトウさんのちょっとためになる農業情報

※こちらの記事はアグリノート公式Facebookページに掲載した連載記事を、
アーカイブとして転載したものです。

【2017/7/6更新:第七回】

こんにちは。アグリノートサポートチームです。

コラム連載7回目の本日は、
元普及指導員・イトウさんの“ちょっとためになる農業情報”
前回まで3週に渡ってご案内しました『アブラムシ』のお話のスピンオフ『微生物農薬使用のポイント』をお届けします。

 

微生物農薬の特徴と使い方のポイント

前回、害虫に感染する微生物を製剤化したものがあるというお話しをしました。
微生物農薬には糸状菌を製剤化したもの、ウイルスを製剤化したもの、バチルス・チューリンゲンシスという細菌の結晶タンパク質を利用したもの(BT剤)などがありますが、今回は糸状菌製剤を中心にお話しします。

なお、微生物農薬も農薬です。
使用基準を守り、有効期限内のものをラベルの記載に従って使用しましょう。

 

■ 糸状菌製剤の特徴

昆虫に感染して昆虫に病気を引き起こす糸状菌を昆虫病原糸状菌と呼びます。糸状菌製剤は昆虫病原糸状菌を製剤化したものです。乳剤や水和剤となっているので、通常の農薬と同じように散布して使用することができます。

糸状菌製剤も基本的にはカビなので、感染にある程度の湿度を要します。そのため、たとえばペキロマイセス テヌイペス乳剤(商品名:ゴッツA)は施設栽培限定の野菜類登録になっています(実際の登録内容はラベルを確認してください)。
ボーベリア バシアーナ乳剤(商品名:ボタニガードES)は鉱物油を混合することで湿度の影響を緩和した製剤ですが、それでも湿度が高い方が感染には好適です。

 

■ 糸状菌製剤を効かせるポイント

糸状菌製剤をうまく効かせるポイントは3つあります。

1つは曇雨天の前を狙うということ。
感染にはある程度継続した高湿度条件が必要ですし、紫外線も避けたいところです。散布は夕方に行うと良いでしょう。特に露地で糸状菌製剤を使う場合は乾燥しやすいので天候のチェックが重要です。ただし、糸状菌製剤が活躍しやすい1tu 環境というのは他の糸状菌も活躍しやすい環境ということなので、糸状菌病害が発生するリスクもあります。既に病気が発生している場合や、日没後まで濡れが残るような場合の散布は避けたほうが良いでしょう。

2つ目は散布時期です。
1つ目の条件とも重なりますが、高温期は乾燥しやすいのはもちろん、施設栽培では低温期も加温機がフルに稼働する時期になるとやはり乾燥しやすくなります。特にヒートポンプを利用する場合は顕著です。したがって、加温機が稼働しはじめる秋口や、加温機が止まり始める春先を狙って散布すると効果的です。秋口は冬に向かって害虫をゼロにしておきたい時期ですし、春先は害虫が増えてくる時期なので、防除のタイミングとしては好適です。

3つ目は連用するということです。
通常の化学合成農薬は抵抗性発達への懸念があるため安易に連用すべきではありませんが、微生物農薬は逆です。抵抗性が発達する恐れはありませんし、感染条件がそろうかどうかは運次第という部分があります。したがって、希釈倍率に幅がある場合は薄めの倍率で、散布回数を増やすようにします。1週間間隔で3~4回程度散布すると良いでしょう。

 

■ 新しい微生物農薬の使い方

近年新たに開発された糸状菌製剤として、メタリジウム アニソプリエという昆虫病原性糸状菌をコメに処理したもの(商品名:パイレーツ粒剤)があります。この農薬は粒剤として株元に散布して使います。アザミウマ類は蛹になる際に地上部へ下りてくる習性があります。そのタイミングでアザミウマに感染して殺すという待ち伏せタイプの糸状菌です。

アザミウマが落下してきそうな位置に処理するということと、ある程度の水分を維持することが重要になります。また、地上部のアザミウマ幼虫には効果がありませんから、スワルスキーカブリダニのような捕食性天敵と組み合わせて使うことが有効です。土中で感染するという性質上、効果が実感しにくいのが難点ですが、他の天敵や農薬との組み合わせもしやすく、上手く使えれば有効な技術です。

その他の新しい技術として、近年ボーベリア バシアーナという昆虫病原性糸状菌製剤(商品名:ボタニガード水和剤)で「ダクト内投入」という使用方法で登録内容が拡大されました(現状はトマトとミニトマトのみの登録です)。ダクト内投入は暖房機のダクトに薬剤を投入し、温風によって温室内に成分を拡散させるという処理方法で、これまでには微生物殺菌剤(商品名:ボトキラー水和剤)で同様の登録がありました。ダクト内投入は毎日続けることが重要ですが、散布に比べると省力的で、植物体が汚れず、湿度が上がりにくく病気が発生しにくいという利点があります。

 


≪ 参考文献 ≫
– [メタリジウム粒剤処理による施設キュウリのミナミキイロアザミウマ, タバココナジラミおよびトマトハモグリバエの防除]https://www.jstage.jst.go.jp/article/kapps/55/0/55_13/_article