イトウさんのちょっとためになる農業情報

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イトウさんのちょっとためになる農業情報 第8回『害虫の薬剤抵抗性とローテーション防除』

イトウさんのちょっとためになる農業情報

※こちらの記事はアグリノート公式Facebookページに掲載した連載記事を、
アーカイブとして転載したものです。

【2017/7/13更新:第八回】

こんにちは。アグリノートサポートチームです。

コラム連載8回目の本日は、
元普及指導員・イトウさんの“ちょっとためになる農業情報”
『害虫の薬剤抵抗性とローテーション防除について』をお届けします。

 

害虫の薬剤抵抗性とローテーション防除

害虫に対して特定の農薬を繰り返し使用していると感受性が低下して農薬が効きにくくなることがあります。農薬が効きにくくなると、害虫の多発を抑えられなくなったり、農薬の使用量を増やさざるを得なくなるなど、農作物の安定生産に重大な影響があります。

病害虫の抵抗性管理は、JGAPやGLOBAL G.A.P.においても管理点として設定されており、適正な農業生産のために誰もが取り組むべき事項です。今回は抵抗性管理技術の一つである農薬のローテーション散布について取り上げます。

 

■ 薬剤抵抗性の発達

同じように見える害虫個体群の中にも、遺伝子の突然変異や交雑よって様々な特性を持った個体が存在しています。その中には偶然農薬に強い性質を持った個体(抵抗性個体)が居ることもあります。同じ系統の農薬を繰り返し使っていると、抵抗性個体が選抜され、集団の中における割合が高まり、次第に農薬が効きにくくなっていきます。

■ ローテーション防除

同じ系統の農薬を使い続けることが感受性低下の要因であるならば、異なる系統の農薬を組み合わせて使用すれば良いということになります。感受性発達を予防するために異なる系統の農薬をローテーション散布しましょうということは長く言われてきました。

しかし、ここには二つの問題がありました。一つは農薬の系統が分かりにくいということです。「同じ系統の農薬」というのは「同じ商品」という意味ではなくて、「同じような作用機構を持つ農薬」という意味です。ある農薬に抵抗性を持った害虫個体群が他のある農薬について抵抗性を有してしまう現象を「交差抵抗性」と呼びます。適切なローテーション防除のためには、交差抵抗性が発達しないような組み合わせで農薬を選択する必要があります。しかし、これを判断することは容易ではありません。

もう一つの問題は、世代の概念が考慮されていないという点です。害虫の淘汰選抜は世代ごとに発生しますから、農薬散布によって選抜された個体の子の世代に対し、同じ系統の農薬を散布してしまうと、より高度に抵抗性発達が進む危険性があります。

これらの問題を解決する方法として、近年「ブロック式ローテーション」という方法が提唱されています。

 

■■ ブロック式ローテーション

ブロック式ローテーションは害虫の抵抗性管理に関する国際的な組織であるIRAC(Insecticide Resistance Action Committee、殺虫剤抵抗性対策委員会)が提唱している方法です。

1. 農薬を作用機構(MoA: Mode of Action)により分類する。

2. 1作または害虫の1世代分の長さを「ブロック」と定義し、連続するブロックで同一のMoAを持つ薬剤が散布されないようにする。

作用機構による分類グループは「1A」のように数字とアルファベットの組のコードで表示されます。異なる数字のグループには異なる作用機構の農薬が属します。よって、次の点に注意するだけで適切なローテーションが実践できます。

1. 異なるIRACコードの農薬を輪番使用すること。

2. 連続するブロックに同一のIRACコードの農薬を使用しないこと。

数値が同じでアルファベットの異なる農薬同士は、アルファベットが同じ農薬よりは交差抵抗性リスクが低い関係にありますが、数値が違う農薬を選ぶことが原則です。

 

■■ RACコードの調べ方

殺虫剤に関するコードはIRACが作成していますが、同様に殺菌剤はFRAC、除草剤はHRACがコード作成をしており、これらとあわせて「RACコード」と呼ばれています。

近年、日本でもRACコードへの注目が高まっており、パッケージにRACコードが記載されている農薬も見るようになってきました。しかし、まだまだパッケージへの記載は十分ではありませんから、基本的にはRACコードは自分で調べる必要があります。

例えば農薬工業会のWebサイト(農薬の作用機構分類|農薬情報局|農薬工業会)には、RACコードの一覧表を日本語に翻訳したものが公開されています。有効成分での記載ですが、有効成分は農薬のラベルで確認可能です。
また、農文協のWebサイトで公開されているもの(月刊 現代農業2017年6月号 作用機構分類一覧とRACコードのシール、ご活用ください)には農薬名の例も記載されています。

 


≪ 参考 ≫
– 農薬工業会[農薬の作用機構分類|農薬情報局|農薬工業会]
http://www.jcpa.or.jp/labo/mechanism.html

– 農文協[月刊 現代農業2017年6月号 作用機構分類一覧とRACコードのシール]
http://www.ruralnet.or.jp/gn/201706/tokusetsu.htm