イトウさんのちょっとためになる農業情報

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イトウさんのちょっとためになる農業情報 第9回『転流』

イトウさんのちょっとためになる農業情報

※こちらの記事はアグリノート公式Facebookページに掲載した連載記事を、
アーカイブとして転載したものです。

【2017/7/27更新:第九回】

こんにちは。アグリノートサポートチームです。

コラム連載9回目の本日は、
元普及指導員・イトウさんの“ちょっとためになる農業情報” 『転流』をお届けします。

植物の体の中における栄養分の輸送経路には大きく分けて篩部と木部があります。

篩部を流れる「篩管液」はほぼ水から成りますが、その中には炭水化物やアミノ酸、植物ホルモンや無機イオン、RNAやたんぱく質など様々な成分が溶け込んでいます。
その中でも最も濃度が高いのは炭水化物であり、篩部は光合成産物の輸送経路としての役割を持っています。

ところで以前アブラムシのお話しをしましたが、アブラムシは篩管液のみを吸汁する昆虫です。
植物から純粋な篩管液を採取するのは中々難しいのですが、吸汁中のアブラムシの口針を極小のレーザーメスでカットすることにより純粋な篩管液を採取することが可能で、篩管液の研究に用いられています。

木部を流れる「導管液」もほぼ水ですが、その中には根から吸収した無機塩類などが主に含まれています。
つまり、植物が土壌から吸収した養分を運搬する経路というわけです。

ちなみにセミの仲間の多くは土壌中で導管液のみを吸汁しているそうです。
篩管液に比べて栄養分の少ない導管液を利用するのは、競合相手が少ないという利点があるのかもしれません。セミの幼虫期間が長いのは、餌が導管液だからかもしれませんね。

 

転流

植物体内における養分の移動を転流と呼びます。
篩部における転流には明確な方向性があり、転流の出発点を「ソース」、到達点を「シンク」と呼びます。

例えば、成熟した葉で光合成をして生育途中の葉に光合成産物を送っている場合では成熟葉がソース、未熟葉がシンクです。
また、肥大中の芋はシンクですが、種芋になれば芋がソースになります。
シンクとソースの関係は条件によってコロコロと変わります。

シンクとソースの概念を理解しておくと、摘果や摘葉といった作業の理由も理解できるようになります。
例えば、果実が沢山付いている状態はシンクが沢山ある状態です。
そこで摘果をしてやると、シンクが限定されるので、1つあたりの果実の大きさや糖度を高めることができます。

■ 転流を制御する

より踏み込んだ話として、全てのソースが全てのシンクに同じように転流するのではなく、特定のソースから特定のシンクへ転流される傾向が強いというものがあります。
すなわち、ソースの中には役に立つものとあまり役に立たないものが混ざっているということです。

このことを利用して、トマトでは果房裏の葉を若いうちに摘葉してしまうという技術があります。
相対的にソース能力が低い葉を、生育前に除去することで果実のシンク強度を相対的に強めることが狙いです。
また、下位の葉への日当たりがよくなる、尻腐れ果が出にくくなるなどの効果もあります。

トマトの尻腐れ果

尻腐れ果はカルシウム欠乏により発生する生理障害ですが、カルシウムは主に導管流により移動するため、葉からの蒸散が多いと葉にカルシウムを奪われて発生が助長されます。
そのため、摘葉によって葉面積を減らし、葉からの蒸散を抑制することによって、相対的に果実へのカルシウム転流が進み、尻腐れ果の発生を抑制できます。

 


≪ 参考文献 ≫
– [Plants in Action – A resource for teachers and students of plant science]

http://plantsinaction.science.uq.edu.au/book/export/html/

– [佐藤ほか(2004), 摘葉がトマトの尻腐れ果発生に及ぼす影響, 園芸学研究, Vol.3, No.2, pp.183-186]

https://www.jstage.jst.go.jp/article/hrj/3/2/3_2_183/_article/-char/ja/

– L.テイツほか(2017), テイツ/ザイガー 植物生理学・発生学 原著第6版, 講談社

– [宍戸(2013), 野菜の収量と栽培環境?光合成を知れば管理も変わる?, タキイ最前線, 夏号]

https://shop.takii.co.jp/tsk/bn/pdf/1305n_059_062.pdf