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イトウさんのちょっとためになる農業情報 第19回『物理的防除法‐光の利用‐』

※こちらの記事はアグリノート公式Facebookページに掲載した連載記事を、アーカイブとして転載したものです。
※第17回、第19回が同じテーマでお話しが続くため、連載順を変更して公開しております。

 

【2017/10/26更新:第十九回】

コラム連載19回目の本日は、
元普及指導員・イトウさんの“ちょっとためになる農業情報” 、物理的防除法のお話しです。

前々回の続きとなりますが、今回は具体的な防除策となる光の利用について教えていただきました。

 

光を利用した物理的防除

病害虫の中には特定の波長の光に反応するものがあり、上手く利用すれば防除に活用することができます。

 

ヒトの色覚と昆虫の色覚

ヒトは通常青(420nm)、緑(530nm)、赤(560nm)の3つの波長に反応ピークを持つ視細胞(錯体細胞)を目に持っており、これによって光を見ています。そのため、ヒトにとっての光の三原色は「青・緑・赤」となっています。

一方、昆虫の場合は種類にもよりますが、紫外線(340nm)、青(463nm)、緑(530nm)にピークを持つものが多く、ヒトと比べると紫外線が見える代わりに赤色が見えないという特徴があります。例外もあって、例えばアゲハチョウ(ナミアゲハ)は赤色も含む5種類の色を受容する細胞を備えているそうです。

 

08_可視光付近の電磁波スペクトルと昆虫類の反応の例

トラップとしての利用

以前アブラムシの解説をした際にも触れましたが、害虫の中には特定の色に誘引される性質を持ったものがいます。黄色にはアブラムシ類の他にもアザミウマ類やコナジラミ類、ハモグリバエ類など様々な害虫が誘引されます。黄色の他には青色の粘着トラップが販売されていますが、これはアザミウマ類に対してより高い効果があります。ミナミキイロアザミウマが重要害虫であるナスやキュウリでは、青色を組み合わせて使うことが有効です。

また、紫外線に誘引される昆虫も多く、例えばブラックライトのついた電撃殺虫器はそうした性質を利用したものです。水稲害虫のニカメイガは近紫外線(330~400nm)に強く誘引される性質があり、この性質を利用した青色蛍光灯は戦中から戦後にかけて多くの水田で利用され、1948年には全水田面積の12%に相当する34万haで利用されていました。しかし、1949年に「誘蛾灯には害虫より益虫の方が多く捕まる」とのコメントがGHQよりなされると(元となった研究には異論も多かったようです)、その後はBHCなどの農薬に切り替わっていきました。

 

行動抑制としての利用

夜行性のガの仲間は、日中の明るい光を受けている状態では行動が抑制されています。この状態を明適応といいますが、明適応を起こすのに最も優れているのは黄色(580nm)です。そのため、ほ場内に黄色の蛍光灯を設置しておくことでヤガ類の被害を軽減することができます。果樹園では1ルクス程度の弱い光でも効果があることが確認されていますが、当該作物や近隣の作物の生育に影響が無いことをよく確認する必要があります。近年はLEDを用いて農作物への影響を減らしたものも利用されるようになっています。

また、アザミウマ類やコナジラミ類、ハモグリバエ類などの昆虫は、飛び立つ際に紫外線を情報として利用しています。これらの昆虫を紫外線を除去した条件におくと、飛び立ち行動が抑制され周囲への分散が遅くなります。この性質を利用したのが農業用施設の被覆資材で紫外線を除去したものです。また、灰色かび病など一部の病気では病原菌の胞子形成に紫外線が必要なため、紫外線除去フィルム下では一部の病気も発生しにくくなります。ただし、紫外線除去フィルムは訪花昆虫(ハチ)の行動に影響したり、ナスなどの果実の着色に影響する場合がありますので、導入にあたってはよく検討するようにしましょう。

昆虫は単眼といって左右の複眼の間に3つの目を持っています。この目は明暗を素早く捉える能力に優れており、空と大地のコントラストを判断してどちらが空かを判断するのに利用していると考えられています。前回の衝立式ネットの部分で少し触れましたが、昆虫は光を背にして飛ぶ性質(光背反応)を持つものがあり、反射性の高いシルバーマルチなどの資材の上では上手く飛行できなくなります。

08_昆虫の単眼と複眼

 


≪参考文献≫
– 奥田ら(2004)『最新植物病理学』朝倉書店
– 田付ら(2009)『最新応用昆虫学』朝倉書店
– 三橋(2003)『昆虫学大辞典』朝倉書店
– 高市(2002) 紫外線カットフィルムの種類と特性, 農業技術大系 野菜 第12巻
– 片井ら(2015)温室メロン栽培における赤色LED光照射によるミナミキイロアザミウマの密度抑制, 応動昆59: 1-6
– 伊東(1988) 日本における蛍光ランプ普及の背景, 照明学会誌5: 246-250