イトウさんのちょっとためになる農業情報

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イトウさんのちょっとためになる農業情報 第29回『再転流』 #前編

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※こちらの記事はアグリノート公式Facebookページに掲載した連載記事を、アーカイブとして転載したものです。

【2018/03/08更新:第二十九回】

湿度のお話しをお届けしております、元普及指導員・イトウさんの“ちょっとためになる農業情報”。
前回までソースとシンクについて2回に分けてご紹介してきましたが、今回も前後編です。
症状を表す写真もご紹介しますので照らし合わせて見てみてください。

再転流(1)

篩部転流では一部の無機イオンも転流されます。無機イオンはまず根から道管流にのって分配されるので、再度の転流ということでこれを再転流と呼びます。「一部の」といったところがポイントです。イオンの中には篩部を転流しやすいものとしにくいものがあります。その違いは、それぞれの養分が欠乏したときに顕著に表れてきます。

5-4再転流_再転流のされやすさ

 

再転流されやすい養分の欠乏

再転流されやすい養分としては、窒素、カリウム、マグネシウム、リン、亜鉛、モリブデンなどがあります。

例としてマグネシウム(苦土)をあげましょう。マグネシウムが欠乏した時の典型的な症状は、葉脈間の黄化(クロロシス)です。なぜ黄化するのかというと、マグネシウムは光合成に必要な緑色色素であるクロロフィルの構成要素であり、マグネシウムの欠乏によってクロロフィルが影響を受けることで緑色が失われるためです。そして、この症状は下位葉、古い葉に現れやすいという特徴があります。

5-4再転流_マグネシウム欠乏ナスの例

 

マグネシウムに限らず、再転流されやすい養分の欠乏症状は植物体の古い部位から出る傾向があります。ただし必ずしも下位葉から出るとは限らず、例えばトマトでは果実肥大期に中位葉からカリウム欠乏症状が出ることがしばしばあります。これは、果実がカリウムを多く必要とするためで、果実付近の葉からカリウムが欠乏することが原因です。

5-4再転流_カリウム欠乏トマトの例

 

再転流されにくい養分の欠乏

再転流されにくい養分としては、カルシウム、硫黄、鉄、ホウ素、銅などがあります。

カルシウムを例にみてみます。カルシウムの欠乏症状は、一般的には新しい葉や茎の先端で見られます。カルシウムは細胞壁にとって重要な要素で、細胞分裂の際にも必要です。従って、カルシウムが欠乏すると新しい細胞がうまく作れなくなるために、茎の先端の生育が急激に停止したり、葉のフチが壊死して葉が落下傘状に湾曲する特徴的な症状が見られます。葉のフチの壊死は植物の種類によってはチップバーンと呼ばれることもあります。

5-4再転流_カルシウム欠乏キュウリの例

 

他にカルシウム欠乏の特徴的な症状として、尻腐れ果というものがあります。主にはトマトで果頂部(へたの反対側)が褐変するものです。これは実際には腐っている訳ではなく、細胞が壊死して褐変しています。トマト以外にもナスなどの果菜類で発生することもあります。次回、尻腐れ果についてもう少し詳しく取り上げます。


≪参考文献≫
– L.テイツ, E.ザイガー. 植物生理学. 第3版, 培風館, 2004.
– 全農肥料農薬部. 営農指導員のためのトマトの栽培と栄養・生理障害. 全国農村教育協会, 2002