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イトウさんのちょっとためになる農業情報 第30回『再転流』 #後編

※こちらの記事はアグリノート公式Facebookページに掲載した連載記事を、アーカイブとして転載したものです。

【2018/03/15更新:第三十回】

前回の「再転流」のお話し・前編に続き、後編をお届けいたします。
トマトやナスがカルシウム不足となった場合に見られる「尻腐れ果」をご存知ですか?
なぜ尻腐れが起こるのかを解説いただきました。

再転流(2) トマトの尻腐れ果

前回お話ししたカルシウム欠乏の特徴的な症状である「尻腐れ果」についてご説明します。

 

カルシウム欠乏でなぜ尻腐れ症状が出るのか?

カルシウムは再転流されにくい養分であるため、木部を通じての分配しか期待できません。そして、木部を通じた物質の移動は、蒸散か根圧が駆動力になります。

根圧による分配は「押す力」なので、植物体全体に比較的均一に行き渡ります。一方で蒸散による分配は「引く力」なので、主な蒸散の場所、すなわち葉に偏る傾向があります。蒸散が非常に大きいと、葉のフチや果実のように蒸散が少ない場所まで蒸散流が行き渡らないことがあります。そのため、このような場所にカルシウム欠乏の症状が現れてきます。

5-5トマトの尻腐れ果

 

トマトの尻腐れ果の対策

尻腐れ果はカルシウム欠乏による典型的な症状ですが、単にカルシウムを与えれば解決するというものでもありません。土壌中にカルシウムが十分あるにもかかわらず尻腐れ果が多発する、という場合もあります。

上述のように、蒸散過剰は果実がカルシウム不足に陥る原因の一つです。上位節の果房は高温乾燥となりやすいので、集中的に尻腐れ果が発生する場合があります。対策としては、細霧冷房などにより冷却と加湿を同時に行ったり、摘葉により蒸散量を制限することが挙げられます。細霧冷房装置が無い場合でも、通路に散水するなど、日中の空中湿度を稼ぐ対策を心がけましょう。

また、アンモニア態窒素はカルシウムの吸収を妨げるため、水耕栽培であれば夏場にはアンモニア態窒素を処方から除外し、除外分を硝酸態窒素に置き換えることも有効です。アンモニア態窒素を除外した場合、樹勢はややおとなしくなります。その他にカルシウムの吸収を妨げる要因としては、リン酸やマグネシウム、カリウムの過剰、根域の過乾燥・過湿、高ECなどがあります。

カルシウム欠乏の対策として、カルシウムの入った肥料を葉面散布することもありますが、なかなか効果を得にくいというのも実情です。カルシウム剤を散布する場合は、果房にかかるように処理をすることと、花の段階から継続的に処理をすることがポイントになります。しかし、まずは環境条件や施肥などを見直すことを優先しましょう。

 

カルシウムと水の過剰

ところで、果実に十分水が行き渡り、カルシウムが十分供給される状態というのは、果実の品質を考えると必ずしも良い面ばかりではありません。

露地でトマトを栽培していて、雨の翌日に果実が割れてしまった経験はないでしょうか?
根圧による水の吸収は植物体全体に平等に行き渡るが故に、蒸散が少ない状態で土壌水分が多い状態が続くと、果実に水が行き過ぎて割れてしまいます(実際には裂果の要因には様々なものがあり、複雑に絡み合っています。土壌水分の変動以外の要因で割れることもあります)。
土壌水分量の変動が大きいと裂果を助長するので、潅水は少量多頻度で行うようにします。

また、カルシウム過剰が原因と考えられているトマトの障害果に銀粉果(ゴールドスペック)というものがあります。
これは果実の表面に小さな白い斑点が生ずるもので、斑点はカルシウムの化合物が結晶化したものです。銀粉果に関する研究はあまり多くなく、カルシウム過剰が原因なのか、カルシウム過剰になってしまう環境条件(水分過多、過湿)が原因なのかはわかりませんが、銀粉果は日持ちや糖度の面で劣る傾向があります。


≪参考文献≫
– L.テイツ, E.ザイガー. 植物生理学. 第3版, 培風館, 2004.
– E.フーヴェリンク, T.キールケルス. オランダ最新研究 環境制御のための植物生理. 農山漁村文化協会, 2017