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イトウさんのちょっとためになる農業情報 第34回『ミナミキイロアザミウマ』

イトウさんのちょっとためになる農業情報

※こちらの記事はアグリノート公式Facebookページに掲載した連載記事を、アーカイブとして転載したものです。

【2018/04/12更新:第三十四回】

本日の『元普及指導員・イトウさんの“ちょっとためになる農業情報”』は、前回に引き続き『アザミウマ』のお話しです。

ミナミキイロアザミウマ

ミナミキイロアザミウマは果菜類を中心に広い地域で問題となっている害虫です。
この虫はかつて日本には居ませんでしたが、1978年に施設栽培ピーマンで発見されて以来、温暖な地域を中心に分布域を広げています。

このアザミウマは見つかった当初はケグロキイロアザミウマという仮称で呼ばれていました。
その名の通り毛が黒く、成虫が翅を折りたたんだ状態では背中に黒い筋があるように見えます。
この特徴は種類を判別する手がかりではありますが、決め手という訳ではありません。
正確に種類を判別するためには成虫のプレパラート標本を作成して、光学顕微鏡で観察する必要があります。
判別に自信がなければ、地域の普及指導機関等に相談してみると良いでしょう。

ミナミキイロアザミウマはナスやキュウリ、ピーマンといった果菜類を中心に幅広い農作物に寄生し、果実の食害やウイルス病の媒介といった被害を発生させます。

 

#34ミナミキイロアザミウマ

 

寄生部位

ミナミキイロアザミウマが寄生する部位は、作物によって多少異なるため、作物毎に注意して観察すべきポイントを抑えておく必要があります。

例えばナスやキュウリでは、葉に生息する成虫の数が被害の発生と関連することがわかっています。そのため、ナスやキュウリでは主に葉を調査すればOK、ということになります。

一方、ピーマンではある程度密度が高くなるまでは葉への寄生が見られず、花を中心に寄生しています。従って、ピーマンでは花をよく確認する必要があります。
花は指ではじくとアザミウマ等が落ちてきますが、この時下に黒い下敷きなどを置いておくと確認しやすくなります。

 

ミナミキイロアザミウマの密度と被害

ミナミキイロアザミウマによる被害は、作物によっては非常に低い密度から現れてきます。

たとえば被害果実率が5%になる密度はナスでは成虫0.08頭/葉、ピーマンでは成虫0.11頭/花という調査結果があります。これは非常に低い密度です。0.08頭/葉の密度では、10枚の葉を調査しても全く見つからない可能性が45%近くあります。30枚程度調べれば90%の確率で発見できますが、ナスの大きな葉を30枚調べて小さなアザミウマを見つけるのはなかなか大変です。
実際にはほとんど見つけられないような密度から被害が出てきてしまうので、ミナミキイロアザミウマを誘因する性質のある青色粘着板などを使ってモニタリングするのも手です。

一方、キュウリでは健全果の収量が5%減少する密度は、成虫4.4頭/葉とされています。これは結構高い密度です。しかし、キュウリはミナミキイロアザミウマが特に好む作物で、増殖スピードも早く、4.4頭/葉で密度が維持されるということはあまり期待できません。なにより、キュウリではミナミキイロアザミウマがウイルスを媒介するので厄介です。ウイルスが問題となっている場面では、非常に低い密度で大きな被害が生ずる危険性があります。

次回はミナミキイロアザミウマの媒介するウイルス病について取り上げます。

 


≪参考文献≫
– 河合章. ミナミキイロアザミウマ個体群の生態学的研究(11). 日本応用動物昆虫学会誌. 1986, vol. 30, p. 12-16.
– 河合章. ミナミキイロアザミウマ個体群の生態学的研究(12). 日本応用動物昆虫学会誌. 1986, vol. 30, p.179-187.
– 永井一哉. ミナミキイロアザミウマ おもしろ生態とかしこい防ぎ方. 農山漁村文化協会. 1994.