イトウさんのちょっとためになる農業情報

トップページ 記事アーカイブ イトウさんのちょっとためになる農業情報 イトウさんのちょっとためになる農業情報 第38回『天敵としてのタバコカスミカメの利用』

イトウさんのちょっとためになる農業情報 第38回『天敵としてのタバコカスミカメの利用』

※こちらの記事はアグリノート公式Facebookページに掲載した連載記事を、アーカイブとして転載したものです。

【2018/05/24更新:第三十八回】

本日の『元普及指導員・イトウさんの“ちょっとためになる農業情報”』は、タバコカスミカメをアザミウマの”天敵”として活用するお話しです。

 

タバコカスミカメの利用事例

海外におけるタバコカスミカメの利用

タバコカスミカメの天敵利用は地中海地方を中心とした諸外国ではかなり普及が進んでおり、複数の大手農薬メーカーからボトル入りの製品が販売されています(これらは日本では購入することはできませんが、日本でも農薬登録に向けた動きは進んでいるようです)。

施設栽培が盛んな地域であるスペインには、トマトだけで1万haのハウスがあるとされていますが、その半数程度にタバコカスミカメは普及しているそうです。これは5年ほど前に聞いた話なので、現在はもっと広まっているかもしれません。

海外でどのような使い方をされているのかを知る手っ取り早い方法は、製品の取扱説明書を読むことです。Koppert社の製品紹介ページを確認してみると次のようなことが書いてあります。
 

 - 主なターゲットはTuta absolutaの卵と幼虫で、その他にオンシツコナジラミやタバココナジラミ
 - ハダニやチョウ目害虫の卵、アザミウマ、アブラムシ、ハモグリバエも捕食対象

 

Tuta absolutaというのはトマトを食害する小さな蛾で、日本には侵入していませんが警戒されている害虫です。
仮名ですがトマトキバガという名前で呼ばれることがあります。この害虫はトマトの果実を加害するので、甚大な被害が発生します。このTuta absolutaにタバコカスミカメは効果があるということで、海外では早い段階から広く普及したのだと思われます。

 

タバコカスミカメを天敵として利用できる植物、利用できない植物

海外で製品として販売されているタバコカスミカメは、ピーマン、トマト、ナス、一部のウリ科作物や観賞用植物での利用が推奨されています(日本とは違い、市販天敵は基本的に資材としての扱いなので、具体的な適用作物などは示されていません)。

国内では農研機構から施設キュウリとトマトに対するマニュアルhttp://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/pamphlet/tech-pamph/060741.html 〕が公開されていますが、その他にナスで幅広く利用されています。

トマトは品種によりタバコカスミカメの加害の影響が強く出る場合があるので注意が必要です。
品種の影響が大きいので、やってみないとわからないという側面もありますが、ミニトマトなど、果実が小型の品種で落花などの影響が出る場合があるようです。大玉品種の場合ではそれほど心配はありません。

その他、葉に商品価値があるようなものは基本的に適しません。
例えばこの後に説明するタバコカスミカメ温存用の植物ではしっかりと加害の痕跡が出てしまうので、それ自体を商品とすることは難しい場合があります。

また、害虫となるか益虫となるかを分ける重要な要素として、タバコカスミカメの密度があります。
作物にもよりますが、一般的には1m²あたり0.5から1頭程度の密度で放飼することが推奨されています。
これを大幅に上回るような密度になると、茎にリング状の加害痕が生じて折れやすくなったり、果実に吸汁痕が出たりすることがあります。排泄物による汚れも目立つようになります。ただ、かなりの高密度になっても減収に繋がるようなことは稀で、増えてしまってから対処をしても基本的には大丈夫です。

 

タバコカスミカメの餌となる植物

タバコカスミカメの増え方は植物により、あるいは植物の品種により異なります。
タバコカスミカメが特に好む一部の植物は、タバコカスミカメの温存や増殖に利用できます。そのような植物にはゴマ、クレオメなどがあります。海外ではDittrichia viscosaという植物がタバコカスミカメの温存・増殖に利用されているようです。Dittrichia viscosaは日本では目にすることもありませんが、べとべとして不快な臭いのあるキク科植物のようです。タバコカスミカメが好む植物はべとつくものが多いような気がします。

 
国内の調査事例では、バーベナの園芸品種である「タピアン」がタバコカスミカメの維持・増殖に適しているという結果が出ています。ただ、バーベナは主に苗で流通するため、入手時期が限られます。

 
ゴマは栽培すると1.5mくらいの草丈まで生育しますが、は種から3ヶ月程度で登熟して枯れてしまうので、栽培タイミングが重要になります。
は種から発芽までが比較的早いので、焦って準備しても割となんとかなりますが、発芽には高温が必要です。

 
クレオメはフウチョウソウ科の草花で、種子が流通しています。
日本の屋外では越冬できないので一年草扱いになっていますが、本来は多年草で、ハウスなどで栽培すると2m以上の草丈になってかなりの存在感を示します。
草丈の低い矮性品種の鉢植えが流通していることもあります(屋外ではかなりコンパクトに収まりますが、ハウスで栽培するとどうなるかは分かりません)。
こちらは種の状態にもよりますが、発芽までかなり時間がかかることがあります。また、ゴマ同様に発芽には高温が必要です。

 

#38タバコカスミカメの吸汁痕

 


≪参考文献≫
– 農研機構. “施設キュウリとトマトにおけるIPMのためのタバコカスミカメ利用技術マニュアル(2015年版)”, 2015-12-01.
http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/pamphlet/tech-pamph/060741.html ,(2018-05-16参照)
– Cano, M., et al. Selection of refuges for Nesidiocoris tenuis (Het.: Miridae) and Orius laevigatus(Het.: Anthocoridae): Virus reservoir risk assesment. IOBC/wprs Bulletin. Vol.49. p.281-286.