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イトウさんのちょっとためになる農業情報 第39回『タバコカスミカメ利用のポイント』

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※こちらの記事はアグリノート公式Facebookページに掲載した連載記事を、アーカイブとして転載したものです。

【2018/06/07更新:第三十九回】

本日の『元普及指導員・イトウさんの“ちょっとためになる農業情報”』のテーマは、” タバコカスミカメを利用してみよう‼ ” です。
土着天敵としてタバコカスミカメに活躍してもらうための留意点をご紹介します。

 

タバコカスミカメ利用のポイント

タバコカスミカメを活用するためには、以下の点を抑えておくことが大切です。

– 入手方法
– 増殖時期と放飼時期
– 天敵温存植物の設置
– タバコカスミカメが捕食しない害虫への対策

※以下の説明では施設果菜類での利用を想定しています。

 

入手方法

現時点では、日本国内ではタバコカスミカメを購入することはできませんので、屋外で捕獲するか、人から譲ってもらう必要があります。

前回説明したゴマやクレオメなどのタバコカスミカメが好む植物を植えておくと、運が良ければ自然に寄ってきて定着します。一旦定着すると少々の雨風があっても安定して生息しつづけます。ただしこれは本当に運まかせで、見つかればラッキーくらいのものです。

可能であれば、既に利用している人から譲ってもらいましょう。
ただし、タバコカスミカメのやりとりには一定のルールがあります。

 

タバコカスミカメ利用時のルール

土着天敵は特定農薬(特定防除資材)の1つに定められています。
特定農薬に指定されている資材は、一定のルールを守れば、農薬登録が無くても農薬のように病害虫の防除に使用することができるという仕組みです。

土着天敵はむやみに使用すると生態系への影響も懸念されることから、特定農薬の中でもさらに特別にルールが定められています。例えば土着天敵は捕獲した同一都道府県内でのみ使用できます。他にも届出が必要な事項等、やや細かいルールがあります。
詳しい内容は、特定農薬について解説した農林水産省のWebページhttp://www.maff.go.jp/j/nouyaku/n_tokutei/ 〕や通知「特定農薬(特定防除資材)として指定された天敵の留意事項について」〔 http://www.maff.go.jp/j/kokuji_tuti/tuti/t0000921.html 〕をご確認下さい。

 

増殖と放飼時期

タバコカスミカメは低温期には増殖速度が鈍ります。それに比べると、アザミウマのような微小害虫はやや低温でも増殖しやすい傾向があります。そのため、低温期にタバコカスミカメの密度が十分でないと、害虫による被害を抑えきれないことがあります。これはタバコカスミカメに限らず、他の多くの天敵でも同様です。

放飼のタイミングは基本的に早いほど有効なので、定植時期を目標にゴマやクレオメでタバコカスミカメを増やしておきましょう。
タバコカスミカメの増殖速度は良い条件でも1ヶ月に10倍程度なので、早めの準備が肝心です。増殖は屋外でも可能ですが、その場合には他の害虫を持ち込まないように注意が必要です。

 

#39-1タバコカスミカメ増殖中のゴマ

 

放飼密度は500〜1000頭/10aが標準的ですが、タバコカスミカメによる加害を受けにくいナスではやや高密度でも大丈夫です。1回の放飼を50〜100頭/10a程度として、様子を見ながら何回かに分けて放飼すればより安全です。

 

天敵温存植物の設置

タバコカスミカメの圃場内への定着を安定させるため、ゴマやクレオメなどの温存植物は本圃にも設置しておく必要があります。タバコカスミカメは温存植物周辺に集中して分布する傾向が強いので、温存植物は圃場内になるべく分散して設置しましょう。

ゴマやクレオメは一般的にあまり移植に向かない植物とされていますが、施設内であればセルトレイ等で育苗した苗を移植してもさほど生育に影響はありません。本圃の準備期間から本圃用の苗は準備しておきましょう。

 

#39-2ナスの施設に定植されたクレオメ

#39-3キュウリの施設に定植されたゴマ

 

タバコカスミカメが捕食しない害虫への対策

タバコカスミカメはアブラムシやハダニも一応捕食しますが、劇的な防除効果が上がるほどの捕食はしてくれません。そのため、タバコカスミカメが捕食しない害虫は薬剤など他の手段で防除しなければいけません。

タバコカスミカメに対する農薬の影響は、農研機構が公開しているマニュアルhttp://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/pamphlet/tech-pamph/060741.html 〕内に詳細に調べられた結果が記載されています。薬剤の影響は圃場条件や作物、処理方法によって異なる場合がありますので、事前に小規模の試験を行うことをオススメします。地域の生産者グループで共同して取り組み、積極的に情報交換をすることも大切です。

農薬以外では、防虫ネットなどの物理的防除手段や、他の天敵と組み合わせることが有効な場合があります。一般に、複数の技術を組み合わせると、単体で使う場合より難易度は高くなります。例えば天敵を複数種導入すると、それぞれの天敵に適した環境条件や利用可能な農薬などを同時に考慮しなければいけなくなります。闇雲に導入するのではなく、どのようにすればうまく組み合わせられるのか考えながら、少しずつ利用技術の幅を広げていきましょう。
 


 
≪参考文献≫
– 農研機構. “施設キュウリとトマトにおけるIPMのためのタバコカスミカメ利用技術マニュアル(2015年版)”. 2015-12-01.
http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/pamphlet/tech-pamph/060741.html , (2018-05-16参照)
– 愛知県. “タバコカスミカメを利用した施設ナス・キュウリでの害虫防除”. ネット農業あいち – 技術と経営. 2015-05-15.
http://www.pref.aichi.jp/nogyo-keiei/nogyo-aichi/gijutu_keiei/yasai1505.pdf , (2018-05-16)
– 伊藤涼太郎. “施設ナス・キュウリのアザミウマ類・コナジラミ類防除における天敵の効果”. 関西病虫害研究会報. 2015, Vol.57, p.109-111.