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イトウさんのちょっとためになる農業情報 第40回『天敵としてのアザミウマ』

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※こちらの記事はアグリノート公式Facebookページに掲載した連載記事を、アーカイブとして転載したものです。

【2018/06/14更新:第四十回】

本日の『元普及指導員・イトウさんの“ちょっとためになる農業情報”』のテーマは、「天敵」としてのアザミウマのお話しです。
害虫・アザミウマのお話しから、その天敵となるタバコカスミカメについてを続けてご紹介してきましたが、アザミウマが天敵として活躍することもあるとはどういうことなのでしょう!?

(今回は虫画像が多く登場しますので、苦手な方はご注意ください<@_ _@>)
 

天敵としてのアザミウマ

これまで害虫としてのアザミウマとその防除方法を紹介してきましたが、アザミウマの仲間には肉食の種もいます。肉食のアザミウマ類は防除する必要はありませんし、うまく活用すれば害虫の防除にも利用できます。今回は屋外でも比較的よく見る肉食性のアザミウマの例として、ハダニアザミウマとアカメガシワクダアザミウマの2種類を紹介します。

 

ハダニアザミウマ

ハダニアザミウマはその名の通りハダニを捕食するアザミウマです。
成虫も幼虫もハダニ類を捕食し、成虫は一日に10頭程度のハダニ類成虫を捕食するとされています。

幼虫は空腹時には透き通るような白い体色をしていますが、赤色型ナミハダニのような赤色のハダニを捕食すると腹部が赤く染まるのでよくわかります。また、成虫は翅に特徴的な縞模様があるので、こちらもすぐに見つけられると思います。

ハダニアザミウマは市販などはされていませんが、7〜8月以降に自然に発生してきます。したがって、この時期にハダニアザミウマに影響のある農薬を使用しないように注意すれば、ハダニアザミウマが活躍できる可能性が高まります。

 

#40-1ハダニアザミウマ

 

ハダニアザミウマに対する農薬の影響は、柳田ら(2017)により詳しく調べられています。
やはりアザミウマの防除に用いられる農薬は影響が大きく、死亡率の高い農薬としてはチアクロプリド(バリアード顆粒水和剤)、スピノサド(スピノエース顆粒水和剤)、ピリダリル(プレオフロアブル)、ルフェヌロン(マッチ乳剤)などが挙げられています。
一方、アザミウマ類の防除に用いられる農薬でも、フロニカミド(ウララDF)やピリフルキナゾン(コルト顆粒水和剤)はハダニアザミウマに対する影響は低く、天敵を保護しながらアザミウマ類を防除する農薬として使用できます。

また、影響が大きいとされる農薬でも一定の期間が経過すれば影響がなくなる場合も多く、ハダニアザミウマの発生時期以外にはこれらの農薬を利用することを検討してみても良いでしょう。

 

アカメガシワクダアザミウマ

アカメガシワクダアザミウマも屋外で自然に見かけられるアザミウマで、他種のアザミウマ類を中心としてハダニ類やアブラムシ類、チョウ目害虫の卵など、幅広い対象を餌とします。

成虫は黒色でやや体が大きく目立ちます。幼虫の方はなぜこんなカラーリングを採用したのかと不思議に思うくらい特徴的なカラフルな体色をしています。

 

#40-2アカメガシワクダアザミウマ

 

アカメガシワクダアザミウマは既に農薬登録もされており、利用事例も多くなってきています。
アカメガシワクダアザミウマで研究された少し変わった天敵の利用方法として「ブースター法」と呼ばれるものがあります。これは、栽培初期にはアカメガシワクダアザミウマを放飼し、害虫が増加する時期にはタイリクヒメハナカメムシを放飼するといったやり方です。

タイリクヒメハナカメムシは個々の能力は高いものの、餌昆虫が不足すると定着が安定しないという欠点があります。それを補うために、アカメガシワクダアザミウマには天敵兼タイリクヒメハナカメムシの餌という役割を担ってもらうのです(ちょっと可哀想ですね)。
これにより、害虫アザミウマが増えるリスクを抑えたままタイリクヒメハナカメムシの定着率を上げることができるというわけです。

 


≪参考文献≫
– 診断に役立つ埼玉の農作物病害虫写真集. “ハダニアザミウマ”.
http://gaityuu.com/tenteki/hadaniazamiuma/page0001.htm , (2018-06-12参照)
– 柳田ら. “ハダニ類(ダニ目:ハダニ科)の捕食性天敵ハダニアザミウマ(アザミウマ目:アザミウマ科)に影響のない薬剤の選抜”. 日本応用動物昆虫学会誌. 2017, Vol.61, p.187-191.
– 櫻井民人. “小食天敵を上手く使って害虫退治”. SATテクノロジー・ショーケース2016.
http://www.science-academy.jp/showcase/15/pdf/P-019_showcase2016.pdf , (2018-06-12参照)