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イトウさんのちょっとためになる農業情報 第46回 土壌診断#6『塩基』

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※こちらの記事はアグリノート公式Facebookページに掲載した連載記事を、アーカイブとして転載したものです。

【2018/08/16更新:四十六回】
『元普及指導員・イトウさんの“ちょっとためになる農業情報”』新シリーズ「土壌診断」、第6回は『塩基』のお話です。

 

交換性塩基

「塩基」というのは「酸と対になるもの」というざっくりとした概念ですが、土壌診断ではもう少し意味が限定されています。
具体的にはカルシウム(石灰)、マグネシウム(苦土)、カリウム(加里)といった土壌に吸着される塩基を特に「交換性塩基」と呼んでいます。
これらの塩基は土壌中で粘土や有機物に吸着されていますが、ほかの陽イオン(たとえば水素イオン)と簡単に交換されて剥がれるため、植物が利用しやすい状態となっています。

カルシウム、マグネシウム、カリウムは植物体の中でも含有量の多い成分です。
したがって、これらの成分が過不足なく供給されていることは植物が正常に生育するためには欠かせない条件です。

 

交換性塩基の単位

交換性塩基の量には複数の表現方法があります。今回は測定値そのままを表現した単位である「mg/100g」について説明します。

この単位は「乾土100gあたりの成分含量」を意味しています。なぜこのような中途半端な単位が使われているのかというと、mg/100gを10aあたりに換算するとおおむねkg/10aとみなせるからです。
たとえば石灰の分析値が100mg/100gと示されていれば、圃場10aに成分として100kgの石灰が存在している、と考えることができるわけです。

なお、各塩基の分析値は実際の含量ではなく酸化物(CaO、MgO、K₂O)の相当量に換算されているのが普通です。
肥料に含まれている成分の量も酸化物相当に換算されているため、肥料を施用したりする際にこのことを特に意識する必要はありません。
酸化物表記となっている理由は諸説ありますが、今となっては正確にはよく分からないようです。

 

#6_塩基とは

 

交換性塩基の施用量計算

土壌診断の依頼先によっては、診断結果に交換性塩基の改良目標値が記載されていることがあります。
目標値にするためにはどれだけ資材を使えばよいかまで書かれていることもあります。
しかし、改良目標値が書かれていない場合や、自分の好みの資材で土壌改良をしたいという場合には必要量を自分で計算する必要があります。
また、必要資材量が書かれている場合でも、以下で説明する作土層の厚さや仮比重次第で調整が必要な場合もあります。

改良目標値自体の計算にはもう少し説明が必要ですので、今回は改良目標値が分かっているという前提で説明を行います。

さきほどmg/100gは「おおむね」kg/10aとみなせる、と説明しました。つまり、10mg/100g足りなければ成分で10kg/10a施せば良い…かというとそこまで単純に行かない場合があります。

実は、mg/100g = kg/10aとみなせるのは「作土層が10cm、仮比重が1g/cm³の場合」という条件を満たした場合だけです(仮比重というのは土壌1cm³あたりの土の重さを表す指標です)。つまり、この条件から外れる場合には施用量の調整が必要になります。

たとえば、10cmではなく20cmまでの土層を土壌改良したい場合には施用量は2倍にしなければいけません。また、仮比重が0.7だった場合(火山灰土などが該当します)では10aあたりの土の量も0.7倍になりますから、施用量も0.7倍にする必要があります。

仮比重は砂質の土ほど大きく、火山灰土(黒ボク土)では小さいという傾向があります。目安としては以下のようなものがあります。

– 黒ボク土…0.6〜0.8
– 壌土…1.0
– 埴土・埴壌土…1.2
– 砂土…1.2〜1.4

まとめると、改良に必要な成分量の計算は以下の手順で行います。

改良に必要な成分量[kg/10a]  = (改良目標値[mg/100g] – 測定値[mg/100g]) × 作土層[cm]/10[cm] × 仮比重

実際の肥料の施肥量を計算するには、さらに以下の計算が必要です。

施肥量[kg/10a] = 改良に必要な成分量[kg/10a] ÷ 肥料の成分濃度[%]/100

このような調整が必要なのは診断結果に対する矯正を行う場合のみ、という点にも注意してください。
基肥・追肥として施用する窒素、リン酸、加里は地域で定められている施肥基準などを参考に施用量を決める必要があります。
リン酸と加里は土壌改良と基肥の両方で使用される可能性のある成分ですが、それぞれ別々に考えることがポイントです。

 


≪参考文献≫

– 全国農業協同組合連合会(JA全農)肥料農薬部. 誰にでもできる 土壌診断の読み方と肥料計算. 農山漁村文化協会. 2010.
– 前田正男, 松尾嘉郎. 図解 土壌の基礎知識. 農山漁村文化協会. 1974.