イトウさんのちょっとためになる農業情報

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イトウさんのちょっとためになる農業情報 第48回 土壌診断#8『CEC』

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※こちらの記事はアグリノート公式Facebookページに掲載した連載記事を、アーカイブとして転載したものです。

【2018/09/06更新:四十八回】
『元普及指導員・イトウさんの“ちょっとためになる農業情報”』、土壌診断シリーズの第8回は『CEC』のお話です。

CEC

これまで説明してきた塩基類(石灰、苦土、加里)は電気的な力で土壌に吸着されますが、その電気的な力の大きさを示したのがCECです。
わかりやすい言葉で言えば、要するにCECは保肥力です。

 

陽イオン置換容量

CECはCation Exchange Capacityの頭文字をとったもので、翻訳すると陽イオン置換容量になります(陽イオン交換容量と呼ばれることもあります)。

CECは土壌に保持できる塩基類の上限を表す指標です。したがって、CECを測定し内容を理解することは、適切な施肥量を計算する上で欠かすことができません。

CECはよく土壌粒子から生えた「マイナスの手」の比喩で説明されます。
このマイナスの手が、陽イオンである石灰や苦土や加里を捕まえるわけです。

 

ミリグラム当量

CECにはmeq/100gという日常生活ではまずお目にかからない単位が使われています。
先程塩基は電気的な力で吸着されると言いましたが、この電気的な力の大きさを表したものと考えてください。

meqはミリグラム当量と読みます。meq/100gという単位は塩基類の量を表す際にも使用できます。そして、1meq/100gのCECには、1meq/100gの塩基が保持されます。つまり、meq/100gという単位を使うと、土壌の能力に対してどれだけの塩基が保持されているのか、ということがとてもわかりやすくなるのです。

では1meqの塩基というのは具体的にどれだけなのか、というのが問題になりますが、これは塩基の種類によります。
塩基の種類によって重量あたりの電気的な力の大きさが異なるためです。具体的には以下のような関係があります。

– 石灰… 1 meq/100g = 28.04 mg/100g
– 苦土… 1 meq/100g = 20.15 mg/100g
– 加里… 1 meq/100g = 47.10 mg/100g

つまり、mg/100gで表現された分析値をmeq/100gに変換するためには、石灰なら28.04で、苦土なら20.15で、加里なら47.1で割れば良いということになります。

これで、ようやくCECと各塩基の量を直接比較できるようになりました。

 

塩基飽和度

ところで、こんな面倒な計算を一々やるのは大変だと思います。

そこで、予め「CECに対して各塩基のミリグラム当量値がどれだけの割合を占めているのか」を計算した指標として、塩基飽和度というものが一般的な土壌診断結果には含まれています。

また、単に塩基飽和度と言う場合は、石灰飽和度と苦土飽和度と加里飽和度の合計を表します。

土壌の改良目標値はCECによって変わってしまうため、塩基飽和度や各塩基を当量値で表したときの相対的なバランスで示されている例が多くあります。
このような指標から成分量としての指標を求めたり、実際の施肥量を計算しようとする場合には、塩基飽和度から逆算する必要性が出てきます。

例えば、石灰の基準値が飽和度で50〜60%と定められていたとします。そして、土壌診断の結果、CECは20meq/100gだったとします。
このとき、石灰の基準値は、

CEC[meq/100g] × 飽和度の基準値[%]/100 × 石灰1meあたりの成分量[mg]

として計算します。つまり、今の例では、

20 × (0.5〜0.6) × 28.04 = 280.4〜336.5 mg/100g

が成分量としての基準値になります。

土壌診断の依頼先によってはここまでの計算をした上で、成分量としての基準値範囲も結果に記載してくれる場合があります。
しかし、基準値は品目や地域によって異なりますから、品目を変更した場合などには自ら基準値を計算しなければならない場合もあります。

 

CECの改良

CECは土壌のもともとの性質に左右される部分がかなり大きく、黒ボク土のような火山灰土では多くの場合30meq/100g程度の高い値を示しますが、砂質の土壌では5〜10meq/100gの低い値を示すことも少なくありません。

CECは高いほど望ましい指標ですが、これを改良するのはなかなか容易ではありません。
有機物を施用したり、保肥力改善を目的とした腐植酸資材や泥炭、ゼオライト、ベントナイトなどを施用することで向上しますが、一度に大きくCECを上げることは困難です。

堆肥などの連用によって長期的なCEC改良を行いつつ、現状のCECに合わせた施肥を行うことが大切です。

 

図8-CEC

 


≪参考文献≫

– 全国農業協同組合連合会(JA全農)肥料農薬部. だれにでもできる 土壌診断の読み方と肥料計算. 農山漁村文化協会. 2010.