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イトウさんのちょっとためになる農業情報 第49回 土壌診断#9『有効態リン酸』

※こちらの記事はアグリノート公式Facebookページに掲載した連載記事を、アーカイブとして転載したものです。

【2018/09/13更新:四十九回】
『元普及指導員・イトウさんの“ちょっとためになる農業情報”』土壌診断のお話し、第9回のテーマは『有効態リン酸』です。

 

有効態リン酸

リンはDNAやRNAといった核酸の構成要素です。
核酸は生物の遺伝情報が記録されている物質であり、生物が生物である以上欠かすことができません。つまり、リンはあらゆる生物にとって欠かせない非常に重要な成分です。

 

土壌中でのリンの性質

リンには、土壌に非常に強く吸着されるという性質があります。
特に火山灰土はその性質が強く、リン酸を吸着する程度を示す指標であるリン酸吸収係数が高いということが、火山灰土を見分ける一つの指標にもなっています。土壌中での移動速度も非常に遅く、1日に0.01cm程度しか拡散しません。
一方で根の伸長速度は2〜5cm/日と言われています。植物がリンをしっかり吸収するためには、常に根が伸長し続けていく必要があります。

そのため、生育初期の根が未発達な時期になるべく根の周りのリン濃度を高めておくと初期の生育、根張りが良好になります。例えば定植前に植え穴に過リン酸石灰を施用しておくと効果がありますが、土壌と直接混合すると吸着される割合が多くなるため、堆肥などと混合して施用しておくとより効果的です。

 

リンの測定

土壌に強く吸着されたリンは、なかなか簡単には測定できません。
植物はどうしているかというと、根から有機酸や水素イオンを放出することで根の周りを酸性化し、リンを吸収しやすい状態にしています。そこで、リンを測定する際にはpH3の希硫酸で土壌を浸透してリンを抽出します。
このようにして抽出されたリンを「有効態リン酸」や「可吸態リン酸」などと呼びます(リンも塩基類と同じ様に酸化物相当量に換算されます)。

 

有効態リン酸の基準と注意点

有効態リン酸の基準値としては、農林水産省の公表している「地力増進基本指針」において次のように定められています。

  - 水田…10mg
  - 樹園地…10〜30mg
  - 普通畑黒ボク土・多湿黒ボク土…10から100mg
  - 普通畑その他の土壌…10から75mg

いずれも乾土100gあたりの値です。

有効態リン酸の測定値は全国的に基準を上回る例が多くなっています。
土壌がリン酸を吸着する強さは非常に強いので、リンは施肥効果が得られにくい反面、過剰害も出にくいという性質があります。しかし、有効態リン酸として100〜300mg/100g程度以上のレベルになってくると、過剰害が顕在化してきます。

したがって、有効態リン酸が多い場合にはリン酸の減肥を考慮すべきですが、これについてはまだ統一した見解がありません。
とはいえ、都道府県によってはそれぞれの指針を提示している場合があります。
例として、愛知県の施肥指針では次のような基準が示されています(値はいずれも乾土100gあたり)。

《水稲》
  - 10mg未満…10mgに対する不足量を補った上で基準施肥量の施肥を行う。
  - 10〜15mg…基準施肥量とする。
  - 15〜40mg…基準施肥量の1/2とする。
  - 40mg以上…無施肥とする。

《その他品目》
  - 100mg未満…基準施肥量とする。
  - 100〜200mg…基準施肥量の1/2とする。
  - 200mg以上…無施肥

水稲の基準値が低いのは、稲はリンを吸収する能力が高いのに加え、リンが高濃度であると体内で鉄と結合して鉄欠乏を誘発するため、他の作物よりも低い有効態リン酸でも障害が出やすいためです。

リン酸肥料は原料の問題もあり比較的高価です。そのため、リン酸の減肥は施肥コスト低減の意味でも効果が期待できます。リン酸とともに過剰になりやすい加里(両者とも畜糞堆肥に多く含まれています)を減らした肥料はL型肥料と呼ばれています。有効態リン酸の測定値が高い場合にはこのような資材の利用を検討してみると良いでしょう。

 

図9-有効態リン酸

 


≪参考文献≫

– 愛知県. “農作物の施肥指針”. 2016-03-31.
http://www.pref.aichi.jp/soshiki/nogyo-keiei/0000085287.html (参照 2018-07-12)
– JAあいち経済連. “施肥コストの抑制対策”
http://www.ja-aichi.or.jp/hiryounouyaku/spacial/costdown.html (参照 2018-07-12)
– 岡島秀夫. 土の構造と機能 -複雑系をどうとらえるか-. 農山漁村文化協会. 1989.