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イトウさんのちょっとためになる農業情報 第50回 土壌診断#10『腐植』

※こちらの記事はアグリノート公式Facebookページに掲載した連載記事を、アーカイブとして転載したものです。

【2018/09/13更新:五十回】
『元普及指導員・イトウさんの“ちょっとためになる農業情報”』土壌診断のお話し、第10回のテーマは『腐植』です。

 

腐植

土壌中には様々な有機物が含まれていますが、そのうち生きている動植物や微生物の体そのものと、まだ分解が進んでいなくて形が残っているような動植物の遺体を除いたもの、つまりある程度分解が進んだ有機物全体を「土壌有機物」あるいは「腐植」と呼びます。

ただし、微生物や動植物遺体を厳密に取り除くのは困難なのと、腐植の構造は未解明な部分が多いため、土壌診断で測定される腐植の値は土壌中の炭素の量に一定の係数をかけたものになっています。

 

腐植物質

腐植はさらに腐植物質非腐植物質に分かれます。
腐植の中に非腐植物質があるのには混乱しますが、これは有機物の中でも糖やタンパク質など構造が明らかなものを指します。残りの構造が良く分からない有機物が腐植というわけです。
そして、腐植としての性質をより強くもっているのも腐植物質です。非腐植物質は分解が早いので、そもそも土壌中にそれほど多く存在しているわけではありません。

腐植物質は、構造は良く分からない物質ですが、酸やアルカリへの溶け方が違う物質が混ざっており、この観点からさらに腐植酸(フミン酸)、フルボ酸、ヒューミンという3種に分類されます。
名前から想像がつくかもしれませんが、この中でもっとも腐植らしい性質を持っているのが腐植酸です。

腐植酸を多く含む資材は市販もされており、腐植酸資材は地力増進法が定める土壌改良資材の1つにもなっています。

 

腐植と土壌の肥沃土

一般的には腐植は多いほど土壌の生産性が向上します。
非常に生産性の高い土壌として有名なチェルノーゼムは分厚い腐植の層から成り、黒土の別名通り黒色を呈しています。
腐植物質が黒色なので、土壌に腐植が多いほど土壌の色は黒くなる関係があります。

日本に多い黒ボク土も腐植を多く含む火山灰土で物理性に優れた土壌ですが、リンの吸着能力が非常に高く、リンの施肥をしないと生産性が上がり辛いという欠点があります。
ただ、この欠点が強調されすぎて多くの耕地でリンが過剰になっているという側面もありますから、特に昔からの耕地では土壌診断によりリン含量を把握しておくことが大切です。

 

腐植と団粒構造

土壌が小さな粒状に固まった団粒構造は排水性と保水性を兼ね備えた作物生育にとって優れた土壌構造ですが、腐植を施すことで団粒構造の生成が促進される効果があります。

腐植そのものは粘土などの小さな土壌粒子に付着することで小さな団粒(ミクロ団粒)を構成しますが、これ自体はそれほど重要ではありません。
実際に物理性向上に寄与するのはもう少し大きな団粒(マクロ団粒)で、これは微生物や植物の根が分泌する粘物質によって形成が促進されます。
分解の余地がある有機物は微生物の働きを活発にしますし、既に分解が進んでしまった腐植酸も植物根の生育を促進する作用があり、いずれにせよ腐植の施用は土壌団粒の形成を促す作用が期待できます。

 

図10-腐植(団粒構造について)

 

有機物の施用と蓄積

土壌に施用した有機物は基本的にはほとんどが分解されてしまうため、腐植として蓄積する有機物は僅かです。それどころか、土壌を耕すと土中に酸素が送られて微生物の働きが活発になり、腐植の分解が促されます。つまり耕地というのはそもそも腐植が減少しやすい傾向があります。

それでも、投入した有機物が分解されてできる有機酸には非常に分解されにくい部分もあり、毎年有機物を投入していけば長期に渡って有機物は蓄積を続けます。
イギリスのロザムステッド農事試験場で非常に長い期間続けられている連用試験では、100年以上厩肥を連用しても有機物の蓄積が続くということが明らかになっています。

有機物はどのようなものであれ一度に多量に施すと養分過剰などの問題が発生する危険を伴うため、過剰とならない量を定期的に施すことが重要です。
腐植の水準は短期間ではなかなか上昇しませんので、長期的な気持ちで改良に取り組んでいきましょう。

 


≪参考文献≫

– 九馬一剛. 最新土壌学. 朝倉書店. 1997.
– 松中照夫. 土壌学の基礎. 農山漁村文化協会. 2003.