イトウさんのちょっとためになる農業情報

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イトウさんのちょっとためになる農業情報 第52回 土壌診断#12『堆肥と肥料成分』

イトウさんのちょっとためになる農業情報

※こちらの記事はアグリノート公式Facebookページに掲載した連載記事を、アーカイブとして転載したものです。

【2018/11/1更新:五十二回】
『元普及指導員・イトウさんの“ちょっとためになる農業情報”』土壌診断のお話し、第12回のテーマは『堆肥と肥料成分』です。

 

堆肥と肥料成分

堆肥は、肥料取締法上は「特殊肥料」という区分になっています。特殊肥料に区分される肥料は登録や保証票の添付義務がありませんが、「堆肥」と「動物の排せつ物」はその例外として、品質表示が義務付けられています。

 

堆肥の表示

FAMICのWebサイト( http://www.famic.go.jp/ffis/fert/sub2_hyoji/3_2.htm )に堆肥の品質表示の記載例がありますので、これを例に説明します。

施肥設計において重要となってくるのは「主要な成分の含有量等」に記載されている窒素全量、りん酸全量、加里全量、炭素窒素比の部分です。

窒素、りん酸、加里についてはこのうちどれだけが肥料成分の代替になるのか、という点が重要になります。

堆肥中のりん酸はく溶性または水溶性、加里は水溶性が大半となっています。これらは作物にとって比較的利用しやすい形態であり、基本的には全量が通常の肥料成分の代替になりうると考えることができます(地域の施肥基準によっては多少方針が異なる場合もあります)。

成分量は%で示されていますが、特に記載がなければ現物当たりの重量となっています。つまり、例えば「りん酸全量 3.0%」の堆肥を1t/10a投入したとすれば、成分量にして30kg/10aのりん酸が入ることになります。この量は、基肥量としてカウントする必要があります。特に豚ぷん堆肥や鶏ふん堆肥ではりん酸の含有量が多く、りん酸の減肥をせずに連用すると容易にリン過剰を招きますから、注意が必要です。

 

窒素とC/N比

炭素窒素比というのは堆肥に含まれいている炭素と窒素の比率を表した値で、一般的にはC/N比と呼ばれています。C/N比が大きいほど、窒素に比べて炭素が多くなります。また、C/N比が小さいほど窒素の肥効が早く、強く現れやすいという特徴もあります。

有機物の分解は主に土壌中の微生物の働きによって行われますが、このとき微生物は炭素と窒素を増殖のために消費します。

微生物が必要とする量に比べて窒素の割合が多い有機物が分解されるときには、窒素が余って無機体窒素として土壌中に放出されていきます。この窒素は植物が効率的に利用できます。

一方、窒素が少ない有機物を分解するときには、窒素が不足するので土壌中にもともとあった窒素を取り込みながら微生物が増殖していきます。つまり、植物と微生物の間で窒素の奪い合いが発生するのです。微生物によって窒素が奪われてしまう状態を「窒素飢餓」と呼びます。

窒素飢餓が発生するC/N比の境界は、およそ20とされています。つまり、資材のC/N比が20より小さければ窒素が放出され、C/N比が20より大きければ窒素が吸収されてしまうということです。

 

有機物の連用による窒素の放出

C/N比が高い有機物を施用すると短期間の間には窒素が土壌から吸収されますが、微生物に取り込まれた窒素は微生物が死ぬと放出されます。したがって、有機物の分解が進めばC/N比は低下していき、いずれ窒素が放出されてきます。

かつてはC/N比とその年の窒素放出量の関係から堆肥中の有効な窒素の量を決めるということが行われていましたが、これはあくまで堆肥などを単年度施用した場合の例であって、連用した場合には前年、前々年、もっと前…の有機物が分解されて放出される窒素も入ってくるため、あまり有効な計算とは言えません。

堆肥連用条件でどれだけの窒素が出てくるのかについては、様々な条件が関係してくるため一概には言えない部分がありますが、目安となる基準を示している施肥基準もあります。例として、愛知県の施肥基準では、1t/10aを毎年施用した場合の5年目以降の窒素代替量として以下のような目安を公開しています。

    ● 牛ふん堆肥
          – 秋冬作・・・4kg/10a
          – 春夏作・・・8kg/10a
    ● 豚ぷん堆肥
          – 秋冬作・・・10kg/10a
          – 春夏作・・・15kg/10a

C/N比や有機物の種類によって連用した場合の窒素放出の過程は大きく異なります。窒素放出の過程を予測するモデルは色々と考えられていますが、その中の一つでシミュレーションした結果のグラフを添付しました。グラフを見ると分かるように、窒素放出の量が安定するには半世紀程度の非常に長い時間がかかります。また、おがくずのように分解しづらくC/N比の高い有機物は数十年もの間窒素を吸収しつづけます。

こうした長期的な現象を考慮しながら施肥設計を行うのは現実的ではないため、定期的な土壌診断によって土壌中の実際の窒素量を把握することが大切になってきます。

 

図12-堆肥と肥料成分

 


≪参考文献≫

– 愛知県. “農作物の施肥指針”. 2016-03-31.
http://www.pref.aichi.jp/soshiki/nogyo-keiei/0000085287.html, (参照 2018-07-12)
– 独立行政法人農林水産消費安全技術センター. “堆肥・土壌改良資材 表示の手引き”
http://www.famic.go.jp/ffis/fert/sub2_hyoji/sub2_hyoji.html, (参照 2018-07-13)