イトウさんのちょっとためになる農業情報 第26回『植物体内の「流れ」』
※こちらの記事はアグリノート公式Facebookページに掲載した連載記事を、アーカイブとして転載したものです。
【2018/02/15更新:第二十六回】
湿度のお話しをお届けしております、元普及指導員・イトウさんの“ちょっとためになる農業情報”。
今回は、前回の「飽差の影響」のお話しの中でのちほどあらためて…とお伝えしておりました蒸散量に関するお話しです。
植物体内における「流れ」
前回、蒸散量の低下で葉のカルシウム濃度が低下する、というようなお話しを少しだけしました。今回から何回かに分けて、植物体内での水や養分の移動についてもう少し詳しく取り上げたいと思います。
水の流れ
植物体内では、水は根から地上部へと運ばれていきますが、その原動力は2種類あります。
1つは葉からの水の蒸発、つまり蒸散を駆動力とするものです。葉から水を蒸発させることで負の圧力を発生させ、根を通じて土壌中から水を引っ張り上げます。蒸散が駆動力なので、この流れは日中に多くなります。
もう1つは根が圧力を発生させるものです。これは根が能動的に水を吸収するもので、葉の方向に向かって水を押し上げます。根圧は日中にも生じているのですが、蒸散が盛んな場合には隠れてしまいます。したがって根圧による水の移動は夜間に多くなります。
早朝、植物の葉のフチに水滴がついているのを見たことがないでしょうか?これは、夜間に湿度が高くて露が付いたのではありません。葉のフチには根圧によって吸収された余分な水分を排出するための専用の孔が空いており、そこから水が出てきているのです。この現象は溢液(いつえき)と呼ばれています。
物質の流れ
植物体内には物質が移動するための通路が2種類あります。1つは木部(道管)と呼ばれるもので、土壌中の水とそれに溶け込んでいる無機養分を根から地上部に運ぶものです。
もう1つは篩部(篩管)と呼ばれるもので、この中を流れるものもほとんどは水なのですが、水の中に光合成で作った糖などを作って、植物の体の必要な部位へ運ぶ物質輸送の経路としての役割があります。木部の輸送と違うのは、糖の輸送がメインであるということと、必要な部位へ植物が能動的に物質を運ぶ、という点です。植物体内での物質輸送は転流と呼ばれますが、単に転流といった場合は基本的には篩部における糖の輸送をさします。篩部転流の出発点はソース、到着点はシンクと呼ばれます。ソースは光合成を行っている葉、シンクは果実や成長途中の若い器官が該当します。
転流の話は以前にもいたしましたが、次回あらためてもう少し詳しく取り上げたいと思います。
※イトウさんのちょっとためになる農業情報 第9回 『転流』
https://www.agri-note.jp/2017/08/fb-archive09/
≪参考文献≫
– L.テイツ, E.ザイガー. 植物生理学. 第3版, 培風館, 2004.