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イトウさんのちょっとためになる農業情報 第31回『結露と湿度』

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※こちらの記事はアグリノート公式Facebookページに掲載した連載記事を、アーカイブとして転載したものです。

【2018/03/22更新:第三十一回】

本日の『元普及指導員・イトウさんの“ちょっとためになる農業情報”』は、「結露と湿度」のお話です。

結露と湿度

前回まで(多少脱線もしましたが)、植物の生育への影響を中心に湿度や水の流れについてお話しをしてきました。
今回は病気の発生と湿度の関係を取り上げたいと思います。

濡れと病気の発生

植物に発生する病気の原因は、病気の種類で言えば約75%、病原の種類で言えば約85%を菌類が占めており、その多くは糸状菌、つまりかびです。種類の割合は必ずしも実際に発生する病気の割合とイコールではありませんが、それでもよく見かける植物の病気の大半は糸状菌が原因です。

普通のかびもそうですが、植物の病原となる糸状菌の多くは湿度の高い条件を好みます。そして単に湿度が高いだけでなく、「濡れ」があるかどうかが重要な要因になる場合が多くあります(以前も少しだけ触れました。 http://www.agri-note.jp/2017/12/fb-archive13/ )。
例えば多くの植物に感染して灰色かび病を引き起こす灰色かび病菌を使った研究では、胞子の発芽には90%以上の相対湿度が必要であり、99%と100%の間でも菌糸伸長に大きな差があった(100%の方が菌糸が早く伸びた)という結果が得られているものがあります。

また、各種作物に疫病を引き起こす疫病菌や、べと病の原因のべと病菌は、鞭毛菌類という菌の仲間に属していて、遊走子と呼ばれる水中を泳ぐ能力をもった胞子をつくることがあります。遊走子は葉が濡れていたりすると、植物体への侵入部位(気孔など)に素早く到達できるので、あっというまに伝染が広がります。疫病やべと病の発生する作物を育てたことがある方のなかには、痛い目にあったことがある、という方もいらっしゃるかもしれません。

濡れと湿度の関係

明け方など、特に雨も降っていないのに植物体が濡れているということがあります。これは前回お話しした根圧に起因するもの(溢液現象)以外に、空気中の水蒸気が植物体上で凝結しているもの、すなわち結露が原因の場合があります。

結露は、植物体温が外気に比べて低いと発生しやすくなります。冷たい飲み物の入ったコップなどはすぐに表面が濡れてきますが、同じ理屈です。
温度の低い空気は飽和水蒸気量が少ないので、空気中に保持しきれなくなった水分が水滴として出てきてしまうのです。

 

#31-結露のメカニズム

 

植物体に結露が発生しやすい条件は、例えば明け方に起こります。
空気は少しの熱エネルギーで温度が変わります(比熱が小さい)が、水を多量に含んでいる植物体は温度変化に空気よりずっと時間がかかります(比熱が大きい)。そのため陽が射してきて気温が上がってきても、植物の温度はすぐには変化せず、気温に遅れて上がっていきます。このとき、植物体温が気温より低くなってしまうので、結露が発生しやすくなります。

また、放射冷却という現象により、晴天日の夜間は物体から空へ赤外線の形で熱が逃げていきます。
そのため、何もしていなくても夜間は植物体温が気温より低くなることがあります。

このような状態を避けるためには、例えば施設であれば明け方に少し換気をして温度変化を緩やかにするなどの対策が必要になります。

ところで、結露が発生しそうなのかどうなのか、を判断するための便利な指標として、露点温度というものがあります。
これについて次回解説したいと思います。


≪参考文献≫
– 佐藤豊三. 我が国の植物病害と病原微生物. Microbiol. Cult. Coll. 2013, Vol 29(2), p.79-90
– 手塚信夫, 石井正義, 渡辺康正. 施設栽培におけるトマト灰色かび病の発生に及ぼす空気湿度の影響. 野菜試験場報告. 1983, vol. A. 11, p.105-111.