イトウさんのちょっとためになる農業情報

トップページ イトウさんのちょっとためになる農業情報 イトウさんのちょっとためになる農業情報 第37回『アザミウマの”天敵” タバコカスミカメ』

イトウさんのちょっとためになる農業情報 第37回『アザミウマの”天敵” タバコカスミカメ』

イトウさんのちょっとためになる農業情報

※こちらの記事はアグリノート公式Facebookページに掲載した連載記事を、アーカイブとして転載したものです。

【2018/05/17更新:第三十七回】

本日の『元普及指導員・イトウさんの“ちょっとためになる農業情報”』は、4回にわたってご紹介してきたアザミウマの”天敵”となる、タバコカスミカメに関するお話しです。

アザミウマの”天敵” タバコカスミカメ

タバコカスミカメとは

以前にも少し触れましたが(*1)、タバコカスミカメというアザミウマやコナジラミなどを捕食する土着天敵の利用がここ数年で全国に広まっています。

*1 アーカイブ|生物的防除法 – 土着天敵の利用-  https://www.agri-note.jp/2017/12/fb-archive15/

タバコカスミカメは地中海原産とも言われていますが、ある程度の年間平均気温がある地域であれば全世界的に分布している昆虫です。
こちらのWebサイト( https://www.cabi.org/isc/datasheet/16251 )の下の方に分布を示した地図がありますが、非常に広い範囲で生息が確認されていることが分かると思います。

タバコカスミカメは英語では”tomato bug”と呼ばれており、他にも”tobacco leaf bug”や”tomato suck bug”などの名前もついているそうです。名前からなんとなく想像ができるかもしれませんが、もともとこの昆虫はナス科植物を中心に被害を発生させる害虫として知られていました(タバコもナス科です)。

タバコカスミカメは、カメムシ目のカスミカメムシ科と呼ばれるグループに属しています。
このグループに属するカメムシの多くは、植食性と肉食性の両方の性質を持っており、種によってその程度が違います。例えば稲を栽培されている方には馴染みがあるかと思いますが、アカスジカスミカメやアカヒゲホソミドリカスミカメといった種は、いわゆる斑点米カメムシとして知られており、完全に害虫として認識されています。

タバコカスミカメがなぜ現代では土着天敵として利用されているかというと、植物に対する被害がそれほど大きくなく、むしろ肉食の性質が強く、害虫の密度を抑制する能力に優れていたからです。

 

タバコカスミカメの特性

タバコカスミカメはどんな生き物なのでしょうか?

 

#37タバコカスミカメ成虫

 

成虫は5mmから6mm程度の大きさで、翅に特徴的な縞があります。
もう少し細かい特徴として、脚の節が黒くなっているというものがあります。この2点を押さえておけば簡単に判別できるはずです。
飛んでいる印象は蚊に近いです。間違って叩き落さないようにしましょう。
蚊のように人を刺したりはしない……と言いたいところですが、密度が高まった場合などにごくまれに人を刺す場合があります。私も少し痛い思いをしたことがあります。食べようと思っているのではなく試しに刺しているだけだとは思いますが……。

幼虫は成虫に比べると特徴に乏しく、一見するとアブラムシと見間違えてしまうこともありますが、アブラムシよりはややスリムで、触角に特徴がありますから、これも少し慣れると簡単に見分けられます。
卵は小さい上に植物組織の中に埋め込まれるように産み付けられるので、肉眼で見つけるのは非常に困難です。

 

#37タバコカスミカメ幼虫

 

温暖な環境を好み、日平均気温が23℃程度だと良く生育します。
一時的な低温にはかなり耐えますが、平均気温が20℃を下回ると生育がかなり遅くなるので、日本の施設栽培だと冬季には加温していても増殖するのは難しいかもしれません。ただ、厳寒期を迎える前に増殖させておけば活躍の余地は十分あります。

良い条件の下では卵は1週間程度で孵化し、その後2週間くらいで成虫になりますが、生育スピードは何を餌にしているかによっても左右されます。
生育が最も早くなるのはコナジラミやチョウ目昆虫の卵を餌とした場合です。
ダニやアザミウマだけが餌だと若干生育や増殖が劣ります。

植物を餌とした場合はさらに生育・増殖は遅くなります。
動物性の餌が不足すると生育が劣る点を補うために、スジコナマダラメイガの冷凍卵が天敵の餌として販売されています。
スジコナマダラメイガ卵はタイリクヒメハナカメムシなど他の一部の天敵の餌にもなります。ただし高価です。

生育が遅いと言っても、植物だけでも増殖させられるというのは大きな利点です。
この性質のおかげで他の天敵に比べて扱いがかなり容易になっています。

次回はタバコカスミカメがどのように利用されているかについて取り上げます。

 


≪参考文献≫
– CABI. “Nesidiocoris tenuis(tomato bug)”.
https://www.cabi.org/isc/datasheet/16251 , (2018-05-16参照)
– Koppert. “NESIBUG”.
https://www.koppert.com/products/products-pests-diseases/nesibug/ , (2018-05-16参照)
※上記は2019-04-23アーカイブ公開時はページが公開されておりません。