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イトウさんのちょっとためになる農業情報 第45回 土壌診断#5『pHとEC』

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※こちらの記事はアグリノート公式Facebookページに掲載した連載記事を、アーカイブとして転載したものです。

【2018/08/09更新:四十五回】
『元普及指導員・イトウさんの“ちょっとためになる農業情報”』新シリーズ「土壌診断」、第5回は『pHとEC』のお話です。

 

pHとEC

pHとECはいずれも安価なセンサーが販売されており、個人でも手軽に測定可能な土壌診断項目です。これらは単体では得られる情報量が限られていますが、組み合わせて使うことでより多くの情報を得ることができます。

pHについて おさらいはこちらから
ECについて おさらいはこちらから

 

pHとECの簡易測定方法

正式に土壌診断を行う場合は風乾作業が必要で面倒ですが、これを省略して簡易に測定値を得るやり方で生土容積法というものがあります。これは、以下のような手順で測定を行います。

1. 水100mLを入れた容器を用意する。
2. 圃場から土を採取し、そのまま1の容器に入れていき、合計で150mLにする。
3. 1分程度手で振盪する。
4. 懸濁液にpH、ECセンサーを入れて測定する。

 

#5-1_pHとEC

 

容器はコート種子の空容器がサイズ的に手頃でおすすめですが、手に入らない場合は250mL程度の容量の広口のポリ瓶が適しています。
水を入れて100mLと150mLになる部分にマジックで線を引いておき、圃場に行く前に100mLの水を入れておけばすぐに利用できます。
水は蒸留水が望ましいですが、水道水でも構いません。
井戸水だとECが少し高い場合があるので注意しましょう。予めEC、pHセンサーで測定し、変な値が出ないことを確認しておけば確実です。

 

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土を採取する場合は通常の土壌診断と同様、表層を除外して深さ15cmくらいまでの範囲の土を採取します。

振盪時間は長くなるほどECが高く出て値も安定しますが、あくまで簡易診断なので、毎回の振盪時間を一定にして傾向を見るようにしたほうが良いでしょう。

使用するEC、pHセンサーは、センサー部を容器に入れて使える形状のものを選択すると便利です。

 

測定結果の活用

生土容積法は簡易の診断方法なので、風乾して一般的な手順で測定したpH、ECと同じような値が出るとは限りません。とはいえ極端に違う値が出ることもありませんから、一度比較してどの程度の関係にあるのかは確認しておくと良いでしょう。
また、汎用的に使える指標もありません。しかし、同じ圃場で繰り返し測定すれば、その圃場における傾向を捉えることはできます。「うちの畑で調子の良い状態ならこれくらいの値」というのを把握しておきましょう。

そして、標準的な状態と比べてpH、ECが高い・低いという場合、その組み合わせによって大まかにではありますが次のような傾向が推測できます。

– pHが低い & ECが低い…窒素も塩基類も不足している
– pHが低い & ECが高い…硝酸態窒素が多い(硫酸イオンなどが多い場合もあります)
– pHが高い & ECが低い…塩基類が多いが窒素が不足している
– pHが高い & ECが高い…窒素も塩基類も多い(窒素がアンモニア態窒素のままの場合もあります)

最後の1点にまだ説明していない部分があります。
土壌中では窒素は分子量の大きなタンパク質からアミノ酸に分解された後、アンモニア態窒素、硝酸態窒素と順次分解されていきます。この分解は土壌中の細菌が担っていますが、その中でもアンモニア態窒素を生成する菌(アンモニア化成菌)はその後の分解を担う細菌(亜硝酸化成菌や硝酸化成菌)よりも環境耐性が強いという性質を持っています。

そのため、土壌消毒の後に有機質の肥料を多く施したりすると、アンモニアから先の分解が遅れ土壌中にアンモニアが蓄積する場合があります。
アンモニアはアルカリ性を示すので、このような場合には塩基が過剰でなくともpHが高くなります。
有機質肥料の分解の遅れは、施設等の通気性の低い条件ではガス害に繋がることもあります。有機質肥料の施用量とタイミングには注意しましょう。

 


≪参考文献≫

– 農研機構. “硝酸化成作用”. ルーラル電子図書館-農業技術事典NAROPEDIA.
http://lib.ruralnet.or.jp/nrpd/#koumoku=12457(2018-06-28参照)
– 藤原俊六郎ら. 土壌診断の方法と活用. 農山漁村文化協会. 1996.