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有機農業の現場を写真とデータで“見える化”。部会にデータを公開し、着実に改善につながる取り組みを続けたいです。

鹿児島県鹿児島市有限会社 かごしま有機生産組合

この事例のポイント!

  • 紙にメモからデータ入力へ移行し、有機JASやGAP対応を効率化
  • 記録への写真添付を徹底。状態の共有、後進育成に活用
  • 作業時間や収支を見える化し、経営改善に向け部会で共有

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一度は断念したアグリノート。記録のデータ管理に再トライしてから、部会で情報を共有する現在に至るまでを振り返る

鹿児島県鹿児島市を拠点に、160戸を超える有機農家が集う「かごしま有機生産組合」。多彩な品目を生産しながら独自の取り組みを広げる有機農業の先進モデルとして注目されています。今回は、同組合がアグリノートおよびアグリノートマネージャーをどのように活用しているのか、その取り組みを生産事業部長の上野さん(写真:右)と農場長の三箇(さんが)さんにお伺いしました。

有機JAS対応が強化されることへの期待が導入の決め手に。いまではアグリノートをベースにミーティングしています

– 早速ですが、アグリノートを知った経緯から教えてください。

三箇さん: 「本格的に使用する10年くらい前に一度使わせてもらったことがありました。当時は圃場を登録するのに四隅をクリックして囲わないといけなかったり、設定項目が多くて難しいなという印象を受けて導入を見送りました。」

– その後、どのようなきっかけでまたアグリノートを使おうという流れになったのでしょうか。

上野さん: 「私が入社した頃にスマート農業関係の展示会があって、アグリノートのブースに立ち寄ったところ、担当の方から『今後有機JAS向けの対応が強化される』というお話を伺いました。データに基づいた農業が会社のベースとして絶対に必要だと思っていたので、このお話しをきっかけになんとかうちの会社でもできないかなと思い相談させていただいたところ、『一緒にやりましょう』と言っていただいたのが始まりですね。」

– 再検討いただきありがとうございます。アグリノートを使う前はどのような形で管理されていたのですか?

三箇さん: 「以前は紙の記録しかない状態でした。農場長が毎日圃場図にメモしたり、作業履歴を紙に書いたりしていましたが、『一体何枚あるんだ!』という状況で。それを誰も見返さないので農場長の頭の中にしか残っておらず、これを皆でやろうとすると負担の大きさに対し成果が小さいので、気持ちが萎えてしまいます。
そんな状態のところにアグリノートを使うのはどうだろうという話が出たので、私が担当している知覧農場に導入することにしたのが2年前の話です。」

– その後、導入の成果はありましたか?

kagoshimayuki_image01三箇さん: 「うちの週間ミーティングや農場長会議は、すべてアグリノートをベースに行っています。画面をモニターに出して皆で記録した写真を見ながら進めることで、言葉だけでは伝わりにくい現場の様子を共有しやすくなり、私自身も現場の状況を把握しやすくなって本当に助かっています。

過去には記録の目的が有機JAS認証の維持のためだけに留まってしまい、【生産の知見】が組織のものとして蓄積・活用できるものになっていませんでした。アグリノートはこの状態を解消するためのツールとして手応えを感じています。

例えば、『去年は白菜をいつ植えた?』と急に聞かれても、誰でもアグリノートを見ればわかります。もう1年すると3年分の記録が貯まった状態になるので、早く植えるかの判断などもっと精度の高い話ができるようになります。アグリノートに情報を蓄積することで、農場長の私がいなくても仕事を進められる状況になってきていますよ(笑)。」

写真をベースに生産状況をわかりやすく把握。記録が蓄積されて栽培管理にも職員教育にも活用できる

– 毎日の運用についてお伺いしたいのですが、アグリノートへの記録付けはどのように行なっていますか?

三箇さん: 「まず毎朝、畑を回るときに写真を撮って記録するようにしています。圃場でアプリを開くと位置情報で自分の位置がわかるので、かんたんに圃場を選択できますし、撮った写真を添付できるので楽なんです。誰が見ても状態がわかる写真こそ一番の財産だと思っているので、そこを大切にしています。

作業記録の付け方は、作業を始める前に[作業予定]として作業項目や資材などをざっくり入力して登録しておきます。作業時間は後からまとめて記録に追記しています。例えば、作業に5時間かかったら、作業後に[作業予定]に5時間と入力して実績として保存する形です。以前は翌朝にまとめて入力していたのですが、作業が終わった圃場を一つひとつ選び直すなど手間がかかっていました。作業内容を[作業予定]として登録しておけば記録の編集も簡単ですし、圃場ですぐに行うようにしたことで抜け漏れも防止できるので、とても効率良く管理できています。」

– ミーティングではどのようなお話しをされているのですか?

三箇さん: 「知覧農場で最も重要視しているのは農作業安全対策です。農作業で事故があったら活動できないので、生産性はその次かなと思っています。週1回、2時間ほどのミーティングを行なっており、些細でもいいから気になる情報は出してほしいと職員にお願いして、【情報の見える化】には力を入れています。安全面の情報共有から始まり、アグリノートを元に生産進捗の状況という流れです。
先ほどもお話ししましたが、生産状況の確認で役立つのが写真です。なので、できるだけたくさん写真を撮るようにしています。」

kagoshimayuki_image02上野さん:  「2024年の1回目の除草はいつ行ったか、今年の生育は昨年より遅れているなどといった内容を[記録を見る]画面のタイムラインでの振り返り、写真を年別に並べて比較・確認検討をしています。あれはすごく分かりやすいです。」

三箇さん: 「そうですね。 2024年から生育状況の写真をしっかり撮って残すようにしてきたので、去年との生育記録も比較検討できるんです。これがまだ2年だから検討材料が少ないのですが、どんどん積み重なっていけば栽培管理にも使えるし、新しい職員が入ってもわかりやすく伝えられるようになります。アグリノートの記録はそうした点でも意味があると思います。」

40枚の圃場確認も画面を開いて見せるだけ。「情報の見える化」で有機JASやGAPの管理をスマート化

– 有機JASの更新審査で活用されている機能などはありますか?

三箇さん: 「[記録を見る]画面タイムライン表示は審査の際にもよく使っています。審査の時は作業の日付が重要になってくるので、一目瞭然でまとまっているのでとても便利です。強いて言えば、タイムラインに出荷記録が表示されないのが残念ですね。出荷についても日付が重要になるので、ここは強く要望したい点です。

他には、有機JAS検査では圃場図が重要視されるので、マップ画面はとても大事です。圃場1枚につき1枚の圃場図が必要なのですが、うちは40枚ほど圃場があるので、紙で管理すると40枚紙で用意することになります。軽微な変更でも書き換えが必要なので修正するだけで大変です。アグリノートであれば、修正がすぐにできますし、圃場の場所も画面を開いて見せれば良いので本当に楽になりました。」

– 紙での管理の難しさがなくなったことと、審査の担当の方にも画面で伝わるのは手軽でいいですね。

三箇さん: 「それと[立て看板]が便利ですね。慣行圃場とのドリフトによる干渉距離が何メートルあるとか、確認・情報共有も簡単にできます。

他にも立て看板は危険箇所の情報共有にも使っています。[トラクターは直角に入る]とか[側溝あり]など、危険箇所に立て看板をつけて圃場の注意事項をメモしておいて、圃場に行く前にそれを一緒に確認したり、収穫時期であれば『過去にこの圃場で何があったか』など看板を見てすり合わせたりして情報共有をするようにしています。」

kagoshimayuki_image03上野さん: 「知覧農場の特徴としてGAPでも立て看板を活用しています。トイレマップや従業員管理の面で必要なものは立て看板にメモを残して管理しています。
他にも昨年 ASIA GAP を取得しましたが、作業記録は全部アグリノートで管理しています。
これはうちだけかもしれませんが、GAP 管理の面で言うと、[食品安全対策]とか[機械・設備の点検・整備記録]とか、[生物多様性確認]などの記録は【作付】として個別に設定して記録しています。」

– 管理項目を【作付】として管理されているんですね。管理方法を詳しく教えていただけますか。

上野さん: 「【作付】として登録することで、日々の栽培管理以外に圃場や施設と紐づいた情報を格納する場所ができるので、その中に写真を入れていくような感じです。[食品安全対策]という作付については、『ネズミが入らないように罠をセットした』という対応の内容や、チェック結果を記録に残しています。GAPでは植生や昆虫の情報といった生物多様性の記録を求められるので、これらの管理項目についても残していきたいと思っています。」

栽培データを農家さんと共有し、共通認識のもと一緒に経営分析をしていきたい

– 管理しやすい運用方法を実践されていますね。それでは他の農場での特徴的な活用方法などはありますか?

上野さん: 「そうですね。他にも2か所の農場がありますが、伊佐市の大口農場でのアグリノートの使い方はほとんど知覧農場と同じです。違うところはGAP認証を取得していないという点ですね。特徴的な試みとしては、部会でのデータの公開でしょうか。
大口農場では、ニンジンの品目部会を農家さんと一緒にやっています。その部会内で、組合で生産した際の作業時間や収益、収穫物のサイズの割合、歩留まりなど、さまざまなデータを公開しています。

– 実際のデータを公開しているということですか?

kagoshimayuki_image04上野さん: 「そうです。大口農場の記録をもとに資料化して、『うちの農場はこういう状況です』と言って配っています。データはアグリノートから簡単に出力できますからね。部会内でも栽培履歴をもとにして栽培シミュレーションを行いました。この品目はこの作業が必要で、この肥料を使えば何トンぐらい取れる。そうすれば黒字化するねという感じで。
各農場には確実に記録を残してもらっているので、収支の計算も正確なデータが出せています。実際に農家さんに見てもらっても説得力のあるものになっているので、このシミュレーションの意味合いはかなり大きいと思っています。

今はニンジンだけで取り組んでいる状況ですが、今後は少なくとも、直営農場で作付けしている品目は作っていきたいです。あとはアグリノートマネージャーを使って、農家さんの作業記録・生育記録などのデータもいただきながら、それぞれの品目で経営分析を行いたいと思っています。」

– アグリノートマネージャーのお話しが出ましたがどのように活用されていますか?

上野さん: 「連携している農家さんのアグリノートの記録をもとに、再生産価格がどのくらいなのかを明確にしていきたいと思っています。農家さんとの共通の目標として、何トン取って所得でいくらになるか、その辺をしっかりやっていきたいと思っていて、アグリノートマネージャーであれば農家さんの作業記録・生育記録などのデータをいただきながら、それぞれの品目で農家さんと一緒に経営分析ができるのがいいと思っています。農家さんと部会の中で今のような話をしていくと、取り組みに納得感が出てくると思うんです。」

三箇さん:「このくらい価格がなければ再生産は成り立たないという共通認識の上に立って、価格を決めるためのベースとして明確な数字を提供できるのはとても良いことです。今まさにそれを進めているところであり、アグリノートがなければ実現できません。」

上野さん: 「まずは直営農場での数値をベースに、そこから他の農家さんでも本当にペイできるかを一緒に検討します。農家さん自身で使っている肥料や運賃などもすべて入力してもらって、その過程で自分の経営を把握できるようになるんです。自分の収支がわかるようになれば、『直営農場や他の農家さんは安い資材を使っているよ』といった情報交換もできますし、各農家さんの作業時間がわかるので、『出荷までの調整が早い農家さんがいるけど、そちらではどうやっているの?』というような話もできるようになります。
実際にかかった時間を記録で確認すると『こんなに違うのか』と驚くことも多いはずです。そうしたデータの比較はアグリノートとアグリノートマネージャーがなければ難しいのではないでしょうか。」

 
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– 他にもアグリノートマネージャーの便利だと思うところなど、ありましたら教えてください

上野さん: 「アグリノートマネージャーは取引先との連絡ツール、そして農家さんの手間を減らすための仕組みとして活用しています。農家さんがアグリノートに入力してもらった記録がリアルタイムに共有されるので、組合として『どの肥料を使ったか』など出荷先に提出する内容を確認してきました。
うちは圃場が広域に渡っていて、確認に行くだけで丸一日かかることもありますので、『作業がきちんと進んでいるか』、『問題なくできているか』を現場に行かなくても確認できるのは非常にありがたいです。」

– 事務所にいながら栽培状況の確認ができるというのは大きな変化ですね

上野さん: 「組合運営の立場としては、出荷間際になって『作付けしていませんでした』となるのが一番怖いのです。播種されたかどうかなど、栽培履歴をリアルタイムで確認できるのは大きな安心につながります。

また、出荷先から『この品目の状況はどうですか』と聞かれたときも、アグリノートマネージャーで記録を確認できますし、農家さんが記録に写真を添付してくれていれば状態がわかるので、やり取りのコストを減らすことができて組合には大きなメリットになります。きちんと記録を共有してくれる組合員には、アグリノートの利用料負担が少なくなるような補助を行なっています。」

データを元に仮定を立て、対策を考え、実践する。記録に基づき一歩ずつ階段を上がるような取り組みをしていきたい

– ニンジン部会でのデータの公開・共有やアグリノートマネージャーを使った管理の仕方をお伺いして、データに基づいた農場管理への意識を強く感じました。

上野さん: 「少なくとも記録がなければ改善はできません。品目ごとの部会では『今年はこういうことがあった』、『この資材を使ったら良くなった』という話は出ますが、いろんな要因がある中で背景の情報が抜けた状態で議論しても再現性は確保できません。

だからこそ【バックグラウンドとなる情報=記録】が必須だと思っています。農家さんがアグリノートで記録をつけてくれれば、圃場や地域の特定ができるし、播種から収穫までの作業内容やタイミングも残ります。気候との照らし合わせも可能になりますし、さらに土壌分析データも格納しておけば、土壌条件との比較もできる。記録を基に『これが原因ではないか』という仮定を立て、それに対する対策を考え、実際に試して再び記録に残す。成功すれば『確実性が上がった』というように着実に階段を上がっていくような取り組みをしていきたいんです。」

– 大きい組織だからこそ、という面もありますよね。

kagoshimayuki_image06上野さん: 「そうですね。JAさんのように地域ごとにまとまっている組織であれば、バックグラウンドが共通なので気候や土壌の条件も似ていて比較がしやすい。でも、うちの場合は地域がバラバラで気候も違えば土の質も違う。だからこそ、バックグラウンドの情報とセットでないと議論ができないんです。」

三箇さん: 「上野さんが言うように、記録に基づいて一段ずつ階段を登っている人はやっぱり上手くいっています。組合として一歩一歩階段を上がって、その足跡を記録として残していく姿勢が大事だと思っています。」

– それでは最後に、かごしま有機生産組合さんの今後の展望を教えてください

三箇さん: 「実際に作業などを経験していなくても、記録とデータがあれば内容がわかり追体験できますよね。できればマニュアルという形まではいかなくても、『こういうことがありました』という事例を共有し、データベースとして記録を積み重ねていきたいと思っています。そうすれば新規就農者の方にとっても大きな助けになるはずです。
最初の数年間で失敗を重ねると本当にしんどい。だからこそ、できるだけ不要な失敗を避けられるようにしていきたいんです。」

上野さん: 「そうした取り組みを、組合の共通財産として積み上げていきたいと考えています。これを10年と続けていけば、確実に組合全体の生産技術のレベルは上がっていくはずです。目算も立ちますし、成果が見える形になる。そのベースにアグリノートを据えていきたいと思っています。」

– ありがとうございます。いろいろ機能を活用いただいていますが、10月に【在庫管理】機能(*1)が追加されます。

上野さん: 「在庫管理にはとても期待しています。有機JASの観点で言えば、重要なのはJASシールの在庫数管理です。そうしたものもアグリノートでできるようになればいいなと思っています。」

– ご期待に応えられるよう頑張ります。本日はありがとうございました。

(取材:2025年9月1日)

 
*1 2025年10月機能公開。現在はパソコンブラウザ版でご利用いただけます。

 

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